みなさま、こんにちは。「歯科オーラルクリニック エクラ」院長の小出です。
皆さんは、歯の定期検診をどのくらいの頻度で受けていらっしゃいますか?「虫歯も歯周病も自覚症状がないから大丈夫」と思われている方も少なくないかもしれません。
しかし、口腔内の健康は、全身の健康と密接に関わっています。自覚症状がない初期の段階で発見し、適切な処置を施すことが、将来の大きな病気を防ぐ最善の方法なのです。
近年、歯の定期検診がより身近なものになったと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、「保険診療の範囲内で、以前よりも安く定期検診が受けられるようになった」という声も耳にするようになりました。
これは一体なぜなのでしょうか。今回は、その背景にある国の医療政策の変化と、定期検診の重要性について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
医療政策の転換:治療から予防へ
かつて日本の歯科医療は、「治療中心」の考え方が主流でした。虫歯になったら削る、歯周病が進行したら歯を抜く、といったように、病気が発生してから対処するスタイルです。
しかし、この考え方では、一度失われた歯は二度と元には戻りません。さらに、歯を失うことで咀嚼機能が低下し、全身の健康にも悪影響を及ぼすことが明らかになってきました。
そこで、国は大きな方針転換をしました。「治療から予防へ」、つまり、病気になってから治すのではなく、病気にならないように未然に防ぐことを重視するようになったのです。
これは、歯科医療だけでなく、国民全体の医療費の増大を抑制する目的もありました。高齢化が進む日本において、医療費は年々膨らんでいます。
口腔内の健康は、糖尿病や心臓病といった全身疾患と深い関わりがあるため、口腔ケアを徹底することで全身の健康が維持され、結果的に医療費の削減に繋がると考えられるようになったのです。
保険適用範囲の拡大と具体的な事例
このような医療政策の転換に伴い、予防歯科に関する保険適用範囲が段階的に拡大されてきました。以前は自費診療であった処置が、保険適用になったことで、患者さんの経済的負担が軽減され、より多くの人々が定期検診を受けやすくなりました。
その代表的な例として挙げられるのが、「歯周病安定期治療(SPT)」です。以前の保険制度では、歯周病の治療は病状が進行している場合にしか適用されませんでした。
しかし、歯周病は一度進行してしまうと完治が難しく、再発しやすい病気です。そこで、歯周病の治療が一段落した後も、病状を安定させ、再発を防ぐための定期的なメンテナンスが保険適用されるようになりました。これにより、患者さんは歯周病の再発リスクを抑えつつ、定期的なケアを経済的な負担を気にすることなく続けられるようになったのです。
もう一つ重要なのが、「う蝕(虫歯)管理指導」や「機械的歯面清掃(PMTC)」の保険適用範囲の拡大です。以前は、虫歯の治療が終わった後、予防のための歯面清掃やフッ素塗布は自費診療が一般的でした。しかし、予防の重要性が認識されるにつれ、定期検診時にPMTCやフッ素塗布を行うことが、虫歯や歯周病の予防に非常に効果的であると認められました。これにより、患者さんはより身近なものとして、専門的なクリーニングを受けられるようになりました。
さらに、近年では、「口腔機能低下症」という概念が保険適用となりました。
これは、単に虫歯や歯周病がないだけでなく、咀嚼機能や嚥下機能、唾液分泌機能などが低下している状態を指します。
以前は、このような機能低下は「加齢によるもの」として見過ごされがちでしたが、現在では病気として診断され、適切な治療や指導を保険診療で行うことができるようになりました。
機械的歯面清掃(PMTC)について
歯科医院で行われる専門的な歯のクリーニングであるPMTCは、歯科医師や歯科衛生士が、専門の器具を使って歯の表面や歯と歯の間、歯周ポケットの奥など、普段の歯磨きでは落としきれない汚れを徹底的に除去する処置です。
PMTCの主な目的と効果
- バイオフィルムの除去: 歯の表面にこびりついた細菌の塊である「バイオフィルム」は、通常の歯ブラシではなかなか落とせません。このバイオフィルムは、虫歯や歯周病の直接的な原因となるため、PMTCで除去することが非常に重要です。
- 虫歯・歯周病の予防: バイオフィルムや歯垢、歯石を取り除くことで、虫歯や歯周病の原因菌を減らし、病気を未然に防ぎます。
- 口臭の改善: 口臭の原因となる細菌や汚れを取り除くことで、口腔内を清潔に保ち、口臭を軽減します。
- 歯の着色汚れの除去: お茶やコーヒー、タバコなどによる歯の表面の着色を落とし、本来の自然な白さに近づけます。
- 歯の表面を滑らかに: PMTCで歯の表面をツルツルに磨き上げることで、汚れが再び付着しにくくなります。
PMTCは、日々のセルフケアを補うための重要なプロフェッショナルケアです。定期的に行うことで、お口の健康を長期的に維持することができます。
18歳と50歳に忍び寄る口腔機能低下の危機
ところで、皆さんは「口腔機能低下症」と聞くと、ご高齢の方だけの問題だと思っていませんか?実は、最近の研究で、18歳という若い世代や、50歳といった働き盛りの世代でも口腔機能が低下しているという事実が明らかになってきました。
18歳の若年層では、柔らかい食べ物を好む食生活や、長時間のスマートフォン利用による猫背、唾液の分泌を促す咀嚼回数の減少などが原因で、口腔機能が低下しているケースが増えています。
その結果、ドライマウスになったり、口呼吸が癖になったりして、将来の虫歯や歯周病リスクを高めているのです。
また、50歳を過ぎると、仕事や家庭のストレス、ホルモンバランスの変化などから、唾液の分泌量が減少し、歯周病が急速に進行することが少なくありません。
さらに、若い頃に治療した歯の詰め物が劣化したり、歯がすり減ったりすることで、噛み合わせのバランスが崩れ、咀嚼機能が低下することもあります。
このような口腔機能の低下は、自覚症状がないまま進行することが多いため、ご自身で気づくことは困難です。
しかし、そのまま放置すると、全身の健康にも悪影響を及ぼし、食事の楽しみを奪うだけでなく、生活の質(QOL)を著しく低下させてしまいます。
50歳を過ぎた方は、ぜひ一度、ご自身の口腔機能が低下していないかどうか、専門的な検査を受けてみることを強くお勧めします。
当院でも、噛む力や舌の動き、唾液の量などを測定し、現状を正確に把握する検査を行っています。
海外から学ぶ予防歯科の重要性
日本の歯科医療は、国民皆保険制度のおかげで、比較的安価に質の高い治療を受けることができます。しかし、世界に目を向けてみると、歯科医療に対する考え方は大きく異なります。
例えば、欧米諸国では、歯科治療の多くが自費診療です。虫歯の治療や歯周病の手術など、高額な費用がかかるのが一般的です。そのため、国民の多くは、病気になってから治療するのではなく、病気にならないように「予防」に多額の費用と時間をかけるのが当たり前になっています。
小さい頃から定期的に歯科医院に通い、フッ素塗布やクリーニングをしてもらい、正しい歯磨き指導を受ける。
このような習慣が、国民に浸透しているのです。その結果、虫歯や歯周病の罹患率が日本よりも低い国も少なくありません。
日本の国民皆保険制度は非常に素晴らしいものですが、それに甘んじてはいけません。歯科治療が保険適用で安く受けられるのは、あくまで「治療」のためです。予防歯科も保険適用が拡大してきてはいますが、自費診療で受けられるより質の高い予防処置があるのも事実です。
しかし、それ以上に重要なのは、「歯科医院は歯が悪くなってから行く場所」という意識を改めることです。
海外の事例からも分かるように、歯科医院は「歯の健康を守るためのパートナー」として、定期的に通う場所なのです。
当院が目指す「一生涯ご自身の歯で過ごすためのサポート」
「歯科オーラルクリニック エクラ」では、「一生涯ご自身の歯で過ごすためのサポート」をコンセプトに掲げています。
そのために、私たちは、単に虫歯を削って詰め物をする、歯周病の治療をする、といった従来の歯科医療だけでは不十分だと考えています。
患者様一人ひとりのライフスタイルや口腔内の状態に合わせた、オーダーメイドの予防プログラムを提案することに力を入れています。
具体的には、歯科医師や歯科衛生士による専門的なクリーニング、フッ素塗布、歯磨き指導はもちろんのこと、食事指導や生活習慣のアドバイスなども行っています。また、口腔機能の検査を通じて、ご自身の歯を守るための具体的な目標を一緒に立てていきます。
「歯医者に行くのは怖い」「治療は痛い」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、当院では、患者様がリラックスして通っていただけるよう、丁寧なカウンセリングと痛みの少ない治療を心がけています。
最後に
「歯の定期検診が“保険で安く”受けられるようになった理由」、それは、国が「治療」から「予防」へと舵を切り、国民の健康を長期的に守ろうとしているからです。
この変化は、私たち歯科医師だけでなく、患者様一人ひとりの意識改革にもつながるものです。
お子様からご高齢の方まで、全ての世代の方に、「歯の健康は自分自身で守るもの」という意識を持っていただきたいと心から願っています。そして、そのお手伝いをさせていただくのが、私たち歯科医師の使命です。
ぜひ、この機会に「歯科オーラルクリニック エクラ」へお越しください。皆さまの口腔の健康と、笑顔あふれる豊かな生活をサポートさせていただきます。心よりお待ちしております。