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【歯科医師が解説】「口腔発達不全症」とは?大人も子どもも知っておきたいオーラルフレイルとMFTトレーニング

こんにちは。歯科オーラルクリニック エクラ 院長の小出です。

日々の診療の中で、お子さまからご高齢の方まで多くの方のお口を拝見していると、近年特に気になることがあります。それは、日常的に「お口がポカンと開いているお子さま」「硬いものが食べにくくなったと感じる大人の方」が増えていることです。

「癖だから」「年のせいだから」と見過ごされがちなこれらのサイン。実は、お口の機能が十分に発達していなかったり、衰えていたりする「口腔発達不全症」や 「オーラルフレイル」といった、専門的な対応が必要な状態かもしれません。

これらは、単に歯並びが悪くなる、滑舌が悪くなるといった問題にとどまりません。全身の健康、将来の生活の質(QOL)にまで深く関わる、非常に重要なテーマです。

今回の記事では、

  • お子さまのお口の健全な成長を促す「口腔発達不全症」とは何か
  • その解決策となる「お口のトレーニング(MFT)」について
  • 子供から大人まで繋がる「オーラルフレイル」の怖さ

について、具体的な事例を交えながら、歯科医師の立場から分かりやすく解説していきます。少し長くなりますが、あなたご自身と、あなたの大切なご家族の未来の健康を守るために、ぜひ最後までお付き合いください。


第1章:そもそも「口腔発達不全症」ってなに?

最近、歯科の分野で注目されている「口腔発達不全症(こうくうはったつふぜんしょう)」という言葉を聞いたことはありますか?

これは2018年から日本の健康保険に導入された比較的新しい診断名で、一言でいえば「食べる」「話す」「呼吸する」といったお口の機能が、お子さまの年齢相応にうまく発達していない状態を指します。

お口の機能は、生まれつき完成しているわけではありません。授乳・離乳食を通じて「吸う」から「噛む」へと移行し、様々な言葉を話す練習をする中で、段階的に獲得していくものです。

この成長過程が何らかの理由でうまくいかないと、様々な問題がドミノ倒しのように起こり始めます。

「口腔発達不全症(こうくうはったつふぜんしょう)」とは、子どもに多く見られる「食べる」「話す」「呼吸する」などの口腔機能が十分に発達していない、または正常な機能を獲得できていない状態を指します。

この疾患は2018年に日本で新しく設定され、保険適用で治療が行われています。

1. 口腔発達不全症の定義

口腔発達不全症(こうくうはったつふぜんしょう)の定義は、「食べる機能」「話す機能」「その他の機能(呼吸など)」が十分に発達していないか、正常に機能獲得ができていない状態を指します。

明らかな摂食機能障害の原因疾患がないにもかかわらず、個人や環境要因によって専門的な関与が必要な場合に診断されます。

具体的には、咀嚼や嚥下がうまくできない、発音が不明瞭、口呼吸が常態化している、口唇閉鎖不全(口が閉じられない)、舌や唇の筋力低下などが主な症状です。

診断は、食べる・話す・呼吸する機能に関する複数の項目で問題が認められた場合に行われ、チェックリストなどを用いて総合的に評価されます。

口腔発達不全症の主な特徴 内容
定義 食べる、話す、その他の機能が十分に発達していない状態。明らかな摂食障害がなく、専門的関与が必要。
症状 咀嚼・嚥下困難、構音障害、口呼吸、口唇閉鎖不全、舌突出癖、片噛みなど。
原因 口呼吸、鼻閉、口唇閉鎖力低下、舌や唇の筋力低下、柔らかい食事、姿勢不良、生活環境。
弊害 虫歯・歯肉炎リスク増、口臭、歯並び悪化、発音障害、咀嚼・嚥下機能低下、姿勢悪化。

メモ

口腔機能発達不全症とは、「食べる機能」、「話す機能」、または「呼吸する機能」が十分に発達していないか、正常に機能獲得が出来ていない状態で、明らかな摂食機能障害の原因疾患がない場合を指します。

2. 主な症状

上手に噛めない

上手に飲み込めない

上手に発音できない

口を閉じることができず、常にぽかんと開けてしまう

舌や唇の筋力低下

片側だけで噛む「片噛み」

3. 主な原因

口呼吸や鼻閉

口唇閉鎖不全(唇を閉じる筋力の低下)

舌突出癖や指しゃぶりなどの口腔習癖

柔らかい食事や食習慣の変化

姿勢の悪さや生活環境の影響

4. もたらされる弊害

むし歯や歯肉炎のリスク増加(口腔内の乾燥による)

口臭の悪化

歯並びの悪化(出っ歯、開咬など)

発音機能の低下

咀嚼・嚥下機能の低下

姿勢の悪化(猫背、集中力低下)

5. 治療・対応方法

鼻呼吸を意識し、鼻閉の改善

口を閉じる筋力を強化するトレーニング(口唇マッサージ、遊びや生活の中でのトレーニング)

咀嚼・嚥下訓練(ガムトレーニングなど)

舌の位置や動きの指導

口腔習癖の除去(指しゃぶり、舌突出癖など)

定期的な歯科検診と早期発見・早期介入

6. 早期発見・介入の重要性

口腔機能発達不全症は自然治癒が難しく、早期に発見して適切なタイミングで介入することで、今後の発達が見込まれます。

小児期に正しい咀嚼や嚥下を身につけることで、将来の健康リスク(誤嚥性肺炎など)を予防できます。

口腔発達不全症は、見逃されやすいですが、子どもの成長や健康に大きな影響を与える疾患です。日常生活や食習慣、遊びの中でのトレーニング、そして歯科医院での専門的なサポートを組み合わせて、健やかな口腔機能の発達を目指しましょう。

たとえばこんな症状、ありませんか?

  • よく食べ物をこぼす

  • ガムや固いものが噛めない

  • 話し方がはっきりしない

  • 飲み込むときに時間がかかる

  • 口がいつもポカンと開いている

こうした症状が続くと、成長や健康にも影響が出ることがあります。そこで注目されているのが「MFT(口腔筋機能療法)」というトレーニング方法です。

【もしかして?口腔発達不全症チェックリスト】

お子さまに以下のようなサインが見られたら、お口の機能がうまく育っていない可能性があります。

チェック項目 該当の有無
いつも口が開いている(口呼吸)
食べ物をよくこぼす
ガムや固いものが噛めない
話し方がはっきりしない
飲み込みに時間がかかる
指しゃぶり・爪噛みが抜けない
いびき・歯ぎしりがある
舌が常に下がっている

これらのサインは一つひとつは些細に見えるかもしれません。しかし、これらが複数当てはまる場合、お口の機能がアンバランスな状態にあると考えられます。


第2章:MFTってなに?なぜトレーニングが必要なの?

MFT(Myofunctional Therapy:マイオファンクショナル・セラピー)とは、お口のまわりの筋肉――とくに舌、くちびる、頬の筋肉を鍛えるトレーニングのことです。

目的は以下のとおりです

  • 正しい舌の位置(舌は本来、上あごについている状態が自然です)

  • 正しい飲み込み方(舌で前歯を押さない)

  • 口呼吸から鼻呼吸への切り替え

  • 姿勢の改善(お口と姿勢はつながっています)

MFTは、矯正治療のサポートだけでなく、発音・食べ方・呼吸・姿勢にも良い影響を与えます。

MFTの目的・効果 内容
舌の正しい位置 舌は本来、上あご(スポット)につけるのが自然。
正しい嚥下 舌で前歯を押さず、正しい飲み込みを習得。
鼻呼吸の獲得 口呼吸から鼻呼吸へ切り替え、健康リスクを低減。
姿勢の改善 お口の機能と姿勢は密接に関係。
歯並びの安定 矯正治療の後戻り防止・治療期間短縮にも寄与。
発音・咀嚼・嚥下能力の向上 日常生活の質(QOL)向上に直結。

お子さんのお口はぽかんとあいていませんか?


第3章:大人にも起こる「オーラルフレイル」

「オーラルフレイル」とは、加齢や生活習慣によって、お口の機能が衰えていくことです。

口腔機能の衰えが全身の老化やフレイル(虚弱)につながるという考え方です。口腔機能の低下は、食事や会話だけでなく、全身の健康や社会的な活動にも影響を及ぼします。

年代別のオーラルフレイル

年代 主な特徴・リスク
40代 3人に1人が予備軍。自覚が低いが、口の渇き・むせが増加
50~60代 発音の不明瞭さ、固いものが食べにくくなる
70代以上 咀嚼困難、発音障害、歯の本数減少が顕著

オーラルフレイルのサイン

オーラルフレイルのサイン 内容
食事中によくむせる 嚥下機能低下のサイン。
硬いものが噛めない 咀嚼力低下。
会話が億劫になる 発音・構音機能の低下。
舌がもつれる 舌筋力低下。
口が乾く 唾液分泌低下。

この状態を放っておくと、栄養不足や認知症、寝たきりのリスクも高まります。
だからこそ、大人にもMFTトレーニングや日々のお口のケアが必要です。

年代 オーラルフレイル該当率
40代 10〜14%(予備軍含むと33%)
50-60代 10〜14%(予備軍含むと40%)
70代以上 21%以上

第4章:子どものオーラルフレイルにも注意!

実は最近、子どもたちの間でも「オーラルフレイル」が増えていることをご存じですか?
特に「噛む力」「飲み込む力」「舌の使い方」の低下が顕著です。

【年齢別】子どものオーラルフレイルの特徴

年齢層 主な特徴
幼児期(3〜6歳) 固いものを嫌がる、食事に時間がかかる、発音が不明瞭、口が開きっぱなし
小学校低学年 噛まずに丸飲み、口がポカン、姿勢が悪い、舌突出癖
小学校高学年〜中学生 発音が気になる、集中力低下、顎や顔の成長に偏り

第5章:子どもの虫歯は減ったが歯並びの悪い子どもが増えている

虫歯の減少と背景 厚生労働省の調査によると、6歳児の虫歯率は1993年の88.4%から2022年には30.8%へと大幅に減少しています。

これは予防意識の向上やフッ素塗布の普及、保護者の意識変化が背景にあります。

一方で増加する歯並びの悪さ 片噛み(偏咀嚼)や柔らかい食事、テレビやスマホを見ながらの食事習慣により、顎の成長が不十分となり、歯並びの悪い子どもが増えています。 厚生労働省の「歯科保健と食育の在り方に関する検討会」でも、片噛みの習慣が歯並びや噛み合わせの悪化に直結することが指摘されています。

カテゴリ 内容
虫歯の減少と背景 厚生労働省の調査によると、6歳児の虫歯率は1993年の88.4%から2022年には30.8%へと大幅に減少。予防意識の向上やフッ素塗布の普及、保護者の意識変化が背景
一方で増加する歯並びの悪さ 片噛み(偏咀嚼)や柔らかい食事、テレビやスマホを見ながらの食事習慣により、顎の成長が不十分となり、歯並びの悪い子どもが増加。厚生労働省の検討会でも片噛みが歯並び悪化に直結すると指摘
歯並び悪化の主な要因 ・片側だけで噛む「片噛み」
・舌や唇の筋力低下
・口呼吸
・指しゃぶりや舌突出癖などの悪習慣
歯並びが悪い場合のリスク ・虫歯・歯周病のリスク増加
・発音障害
・顎関節症
・口内炎の頻発

虫歯は減少、歯並びの悪い子どもは増加

6歳児の虫歯率
1993年 88.4%
2022年 30.8%

虫歯は減少傾向ですが、片噛みや柔らかい食事、スマホ・テレビを見ながらの食事習慣で顎の成長が不十分となり、歯並びの悪い子どもが増えています。

歯並び悪化の主な要因 内容
片噛み 一方の歯だけで噛む習慣。
舌・唇の筋力低下 柔らかい食事、運動不足が原因。
口呼吸 鼻疾患や習癖による。
指しゃぶり・舌突出癖 長期間続くと歯並び悪化。
歯並びが悪い場合のリスク
虫歯・歯周病リスク増加
発音障害
顎関節症
口内炎の頻発

第5章-1:事例紹介① ガムが噛めない子どもたち

ある小学校の調査では「ガムを5分以上噛めない子」が3割以上。理由は顎の筋力不足や噛む習慣の欠如。

これはまさにオーラルフレイルのサイン。
硬い食べ物を避ける家庭習慣や、柔らかい食事中心の食生活も影響しています。


第5章-2:事例紹介② ベロが出せない子どもたち

「舌を出してみてね」と言っても、舌が思った方向に動かせない子どもが増えています。

例えば…

  • 舌が上に持ち上がらない(発音や飲み込みに影響)

  • 舌先が前歯の裏につけられない

  • 舌を左右に動かせない

これは舌の筋力やコントロールの不足が原因です。
MFTでは、「あっかんべー体操」や「舌で上あごを押す練習」などを取り入れ、正しい舌の使い方を学んでいきます。


第6章:家庭でできる!簡単MFTトレーニング3選

① ポッピング(舌の吸着音を鳴らす)

舌を上あごにピタッとつけ、「ポン!」と音を鳴らします。
⇒ 舌の正しい位置感覚を身につける練習。

② ガムかみトレーニング

左右交互に20回ずつしっかり噛む習慣を。
⇒ あごの筋力とバランスを整える。

③ ストロー飲みトレーニング

細めのストローで少しずつ水を吸う。
⇒ 唇と頬の筋肉を鍛える練習になります。

トレーニング方法をまとめると下記の表のようになります。

トレーニング名 方法・目的
スポットポジション 舌先を上あごのスポットに5秒つける。
ポッピング 舌を上あごにつけて「ポン」と音を出す。舌の位置感覚強化。
ガムかみ 左右交互に20回ずつ噛む。顎の筋力とバランスを整える。
ストロー飲み 細いストローで水を吸う。唇と頬の筋力を鍛える。
ティップ 舌先でスティックを押す。舌先の筋力アップ。

第7章:まとめ 〜お口の発達は一生の健康につながる〜

「お口の健康は全身の健康の入り口」です。
子どもにとっては発育と学習、大人にとっては健康寿命の延伸に直結します。

重要ポイント 内容
早期気づき 口腔機能発達不全症は自然治癒が難しく、早期介入が重要。
家庭と歯科医院の連携 日常の食事・遊び・生活+専門的サポートが効果的。
定期チェック 歯科医院での定期検診・トレーニング指導を推奨。

お子さんの「噛めない」「飲み込めない」「話しにくい」など、少しでも気になる症状があれば、お気軽に歯科医院へご相談ください。


ご相談・お問い合わせ

当院では、MFTトレーニングを取り入れた口腔機能発達支援を行っています。
お気軽にご相談ください。相談は無料です。

医療法人 エクラ会 歯科オーラルクリニック エクラ
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小出貴照

歯科オーラルクリニック エクラ院長 小出貴照

愛知県日進市にある歯医者「歯科オーラルクリニック エクラ」では、患者の皆様に安心・安全な歯科医療を提供するため、充実した設備と専門医による治療を行っています。当クリニックでは、院長の小出を含む経験豊富なスタッフが皆様の治療を担当しており、各分野の専門医が在籍しています。また、最新の医療技術を導入することで、難しい症例にも効果的に対応することが可能です。 当院は他の医療機関とも連携をとりながら運営しており、持病のある方にも配慮し、慎重かつ万全な治療を提供しています。患者の皆様が安心して通院いただけるよう、スタッフ一同心をこめてお手伝いさせていただきます。

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