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花粉症がお子さんの歯と口の育ちに影響している?

花粉症がお子さんの歯と口の育ちに影響している?

〜口呼吸と口腔機能発達不全症について、歯科医師からご両親へ〜

歯科オーラルクリニックエクラ 院長 小出貴照

 

毎年春になると、くしゃみや鼻水、鼻づまりでお子さんが辛そうにしているのを見て、心を痛めているご両親は多いのではないでしょうか。「薬を飲ませても毎年繰り返すし、いつになったら楽になるのだろう…」「花粉の季節はぐずってばかりで寝つきも悪い」と悩んでいらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。

実は、花粉症が引き起こす「鼻づまり」は、お子さんの口の育ちに思わぬ形で影響を及ぼすことがあります。鼻がつまると自然と口で息をするようになりますが、この「口呼吸」が長期間続くことで、歯並び・顎の発育・お口の機能といった、歯科の観点からとても重要なことに影響が出ることが、近年の研究や臨床の現場でわかってきています。

私、小出は歯科医師として日々の診療の中でお子さんのお口の状態を観察していますが、「花粉症の季節だけ口が開いていたのが、いつの間にかずっとそのままになってしまった」というお子さんに出会うことがあります。そして、それが「口腔機能発達不全症」という状態につながっているケースも少なくありません。

このブログでは、花粉症と口呼吸の関係、口呼吸が引き起こす口腔機能への影響、そして歯科医院でできるサポートについて、わかりやすくお伝えしたいと思います。

難しい言葉も出てきますが、できるだけ日常の言葉に置き換えながらご説明しますね。このブログを読み終えるころには、「うちの子は大丈夫かな?」という視点でお子さんの口元を見てあげるきっかけになれば、と思っています。

子どもの花粉症、実は思った以上に多いんです

「子どもも花粉症になるの?」と驚かれる方もいらっしゃいますが、答えはYesです。そして、その数は年々増えています。鼻アレルギーの全国疫学調査(2020年、鼻アレルギー診療ガイドライン)によると、スギ花粉症の発症率は5〜9歳で30.1%、10〜19歳で49.5%に上ると報告されています。

つまり、小学生のおよそ3人に1人、中高生では2人に1人がスギ花粉症に悩んでいるということになります。

早ければ2歳前後から症状が出ることもあるといわれており、低年齢化が進んでいます。また、花粉症だけでなく、ハウスダストアレルギーを含めると小学生の約3割が何らかのアレルギー性鼻炎を持っているという報告もあります。これはもはや「一部の子どもの話」ではなく、クラスに何人も該当する子がいる「身近な問題」です。

花粉症の子どもが見せるサインに気づいていますか?

小さなお子さんは自分の症状をうまく言葉で伝えることができません。以下のような様子が続いているときは、花粉症が関係している可能性があります。

鼻水・くしゃみが続く、鼻をよくこする・すする、目をかく、口を開けたまま呼吸している、いびきをかいて眠る、朝起きると機嫌が悪い・ぼーっとしている、夜中に目が覚めることが多い、といったサインがその代表です。

これらのサインが花粉の季節に毎年繰り返されているようであれば、耳鼻咽喉科への受診を検討されることをおすすめします。花粉症の適切な治療を始めることが、結果的に口の健康を守ることにもつながるのです。

 

鼻づまりが続くと「口呼吸」が始まる

私たちが普段息をしているのは鼻からです。鼻呼吸は、吸い込んだ空気を温め、湿らせ、ほこりや細菌をフィルターし、清潔な状態で肺に届けるという重要な役割を果たしています。

また、鼻から吸う空気は一酸化窒素(NO)を含んでおり、これが気道の拡張や免疫機能の調整に関与していることも知られています。鼻呼吸は、まさに身体に備わった優れた「天然フィルター」なのです。

ところが、花粉症で鼻がつまると、この鼻呼吸ができなくなります。子どもの体はとても素直で、「鼻でできないなら口で」とすぐに適応します。

これが口呼吸のはじまりです。最初は「花粉の季節だけ」だったはずが、習慣化してしまい、鼻の通りがよくなってもずっと口が開いたままになってしまう、というケースが実際の診療でも多く見られます。

口呼吸の状態では、口の中が常に乾燥します。唾液には虫歯菌や歯周病菌を抑える抗菌作用がありますが、乾燥することでその効果が低下し、虫歯や歯ぐきの炎症(歯肉炎)が起きやすくなります。さらに、口が開いていると、口臭も出やすくなります。これは細菌が繁殖しやすい環境が整ってしまうためです。

また、口呼吸では空気中のウイルスや細菌が鼻のフィルターを通らず直接のどや気道に入りやすくなるため、風邪をひきやすくなるといわれています。花粉症の粘膜が炎症を起こしている時期はとくに注意が必要です。

「うちの子、口が開いてるかも」と感じたら

日常生活の中でチェックできるサインがあります。テレビを見ているときや集中しているとき、眠っているときに口が開いている、起きたとき口の中がカラカラに乾いている・口臭が強い、食事のときに音を立てて食べる(クチャクチャ音)、食べるのが遅い・よく食べこぼす、などが目安になります。

当てはまるものがあれば、ぜひかかりつけの歯科医に相談してみてください。

 

口呼吸が歯並びや顎の発育に影響する理由

「歯並びは遺伝で決まるもの」と思っていませんか?実は、歯科医学の観点では、遺伝の影響はみなさんが思っているよりずっと小さく、日々の生活習慣や口の使い方が歯並びや顎の発育に大きく関わっていることが近年わかってきています。

その中心にあるのが「力のバランス」です。歯は、内側から押す舌の力と、外側から押さえる口唇・頬の力が釣り合った場所に生えてきます。鼻呼吸のときは唇がしっかり閉じており、舌は上顎(口蓋)の裏側にぴったりとくっついています。

この正しい位置が保たれることで、上顎の骨は横方向にしっかり広がり、歯がきれいに並ぶスペースが確保されます。

ところが口呼吸になると、唇が開き、舌が下に落ちた「低位舌」と呼ばれる状態になります。すると、上顎を内側から押し広げる舌の力が弱くなり、上顎の発育が不十分になることがあるとされています。また、常に口が開いている状態では、前方からの風圧や唇のゆるみで上の前歯が前方に傾きやすくなり、いわゆる「出っ歯」になりやすいとも言われています。

さらに、舌が下に位置することで下顎の成長方向が変化し、顔が上下に長くなる「面長顔貌」に発展する場合もあるとされています。

このような変化は一朝一夕では起こりませんが、子どもの成長期に長期間口呼吸が続くことで、少しずつ積み重なっていくと考えられています。だからこそ、早い段階で気づいてあげることがとても大切です。

成長が完了した大人になってからでは、骨格的な変化を元に戻すことが難しくなり、外科的な対応が必要になることもあるからです。

 

「口腔機能発達不全症」とはどのような状態なのか

少し難しい言葉ですが、2018年(平成30年)から日本歯科医学会によって正式な疾患名として設定されたものです。「食べる機能」「話す機能」「その他の機能(呼吸・嚥下など)」が十分に発達していないか、正常な機能の獲得ができていない状態を指します。対象は15歳未満の子どもで、生まれつきの病気や障害が原因ではなく、環境や習慣の影響で機能の発達が遅れている状態です。

2018年の保険適用開始後、全国の歯科医院でこの診断と管理が行われるようになりましたが、その実態はというと、2021年に実施された全国調査では3歳から12歳の30.7%にいわゆる「お口ぽかん(口唇閉鎖不全)」が見られると報告されています。

また、唇を閉じることが苦手な小学生は約50%、口呼吸している小学生は約30%いるとも報告されており(全国健康保険協会)、決して珍しい状態ではないのです。

口腔機能発達不全症が引き起こす具体的な問題

この状態が続くと、いくつかの問題が重なり合って現れることがあります。まず、うまく噛めない・飲み込みにくいという食べる機能の問題です。咀嚼(噛む)機能が十分に発達しないと、食事に時間がかかる、特定の食材を嫌がる、クチャクチャと音を立てる、食べこぼしが多いといった様子につながります。

次に、発音の問題です。舌の動きが未熟なままだと、特定の音が発音しにくいことがあり、言葉の発達や学校生活への影響が出ることもあります。そして、歯並びや顎の成長への影響です。

前述のように、口呼吸・低位舌・口唇閉鎖不全の状態が続くことで、出っ歯・ガタガタの歯並び(叢生)・受け口などにつながる場合があります。

また、睡眠の質への影響も見逃せません。口が開いたまま寝ていると、いびきをかいたり、睡眠が浅くなったりすることがあります。寝ても疲れが取れない、日中の集中力が低い、授業中ぼーっとしてしまうといった状態につながる可能性があります。

花粉症が引き起こす睡眠障害が学力や成績の低下と関係するという研究報告もあることから、早めのケアが重要だと考えられています。

大切なのは「早い段階での気づき」です。口腔機能は発達の途中にあるため、適切な時期に介入すれば機能の改善が期待できると考えられています。逆に、気づかずに放置して成長が完了してしまうと、改善が難しくなる部分も出てきます。早期に発見して適切なサポートをすることが、子どもの将来の健康につながるのです。

 

よくある質問にお答えします(Q&A)

Q  花粉症の薬で鼻づまりが治れば、口呼吸も自然に治りますか?

花粉症の薬で鼻の通りがよくなれば、鼻呼吸がしやすくなることは確かです。ただし、長期間にわたって口呼吸が習慣化してしまった場合は、鼻が通るようになっても「癖」として残ることがあります。また、お口周りの筋肉(口輪筋)が弱くなっていると、唇を閉じる力が不十分なままになることも少なくありません。鼻の治療と並行して、お口の筋肉のトレーニングも取り入れることをおすすめします。気になる場合は歯科医院にご相談ください。

Q  歯並びが悪いのは遺伝だから仕方ないと思っていましたが、違うのですか?

「遺伝で決まる」というイメージが強いかもしれませんが、歯科医学的には、歯並びや顎の発育に与える遺伝の影響は一般的に思われているよりずっと小さいとされています。むしろ、日々の口の使い方・呼吸の仕方・食べ方・舌の位置といった「機能的な習慣」が顎の骨格の成長に大きく影響することがわかってきています。口呼吸の改善や正しい舌の位置の習得によって、顎の発育の方向性がより良い状態に向かうことが期待できると考えられています。

Q  「お口ぽかん」は子どもらしい様子で、そのうち治ると思っていたのですが…

お子さんが口を開けてぼーっとしている様子は「子どもらしい」と感じる方も多いかもしれませんが、常に口が開いている状態はお口の機能発達という観点から見ると見過ごせないサインです。2021年の全国調査では、3〜12歳の約30.7%に口唇閉鎖不全(うまく唇を閉じられない状態)が見られることが報告されています。「そのうち治る」と放置するのではなく、早めに歯科医院を受診して評価してもらうことをおすすめします。

Q  口腔機能発達不全症の治療は保険が使えますか?

はい、2018年(平成30年)から保険診療として認められています。15歳未満のお子さんを対象に、診断・管理計画の作成・指導・訓練を月1回程度行うことができます。歯科医院で口腔機能の評価を受け、必要に応じて筋機能トレーニングや食育・生活指導を行います。費用は保険適用なので窓口負担は3割(3歳〜)となりますが、詳細はご受診の際にご確認ください。

Q  歯科と耳鼻科、どちらに相談すればいいですか?

花粉症(鼻症状)の治療は耳鼻咽喉科が専門です。まず鼻の通りを改善することが最優先なので、花粉症の症状がある場合は耳鼻科への受診もあわせてお勧めしています。歯科では、口呼吸が引き起こしているお口の機能・歯並び・顎の発育への影響を評価し、必要なトレーニングや指導を行います。耳鼻科と歯科が連携してお子さんをサポートするのが理想的です。当院では必要に応じて耳鼻科との連携も行っております。

 

歯科医院でできること〜具体的なサポートについて〜

口腔機能発達不全症の管理として、歯科医院ではいくつかのアプローチを行います。お子さんの状態に応じてご提案しますが、大きく分けると以下のようなことが中心です。

①口腔機能の評価と診断

まず、現在のお口の状態を丁寧に評価します。口唇を閉じる力(口唇閉鎖力)、舌の力(舌圧)、噛む力(咬合力)の測定、口の中や顔の写真撮影、保護者へのチェックリストへの記入などを行い、どのような機能の問題があるかを把握します。お子さんに痛みを伴う検査は一切ありません。

②筋機能トレーニング(MFT・口腔筋機能療法)

お口周りの筋肉を正しく使えるようにするためのトレーニングです。

唇を閉じる筋肉(口輪筋)や舌の筋肉を強化し、正しい位置・動きを習得します。具体的には「あいうべ体操」「舌まわし体操」「吹き戻し・風船ふくらまし」など、遊びの延長でできるものも多く、お子さんが楽しみながら取り組めるよう工夫しています。自宅での練習が中心になりますが、月1回程度の通院で経過を確認しながら進めていきます。

③食育・生活習慣の指導

お口の機能は、毎日の食事の仕方や生活習慣とも深く関わっています。よく噛んで食べること、姿勢を正して食べること、食事の形態(ドロドロに溶かしすぎない、適度に噛み応えのある食事)なども、顎の発育と口の機能の発達に影響すると考えられています。当院では、お子さんの年齢や状態に合わせた食生活のアドバイスもお伝えしています。

④必要に応じた医科との連携

花粉症や扁桃腺・アデノイド肥大などが口呼吸の原因になっている場合は、耳鼻咽喉科や小児科との連携をご提案することがあります。

原因となっている医科的な問題を解決することが、口腔機能の改善の土台になるからです。歯科単独ではなく、多方面からお子さんをサポートする体制をとることが大切です。

 

まとめ〜今日からできることと、一緒に守る子どもの未来〜

花粉症は毎年繰り返す辛い症状ですが、「花粉の季節が終わればひと安心」と考えていると、お口の発育への影響を見逃してしまうことがあります。今回お伝えしてきたことをもう一度まとめます。

花粉症による鼻づまりが続くと、子どもは自然と口呼吸になります。口呼吸が習慣化すると、唇の筋肉が弱まり、舌が正しい位置に収まらなくなります。

この状態が続くと、顎の発育が不十分になる・歯並びが乱れる・咀嚼機能や発音機能の発達が遅れるといった「口腔機能発達不全症」につながる可能性があります。

さらに、睡眠の質の低下・虫歯リスクの上昇・免疫力の低下といった全身への影響も懸念されます。

大切なのは「早い気づき」です。お子さんの成長期は、骨や筋肉が活発に発育している大切な時期です。

その時期に適切なサポートをすることで、機能の改善が期待できると考えられています。「うちの子、口が開いてることが多いかも」「食べるのが遅い」「よくいびきをかいている」という気になることがあれば、どうか一人で悩まずに歯科医院にご相談ください。

治療は「やらされるもの」ではなく、お子さん自身が少しずつ「できた!」を積み重ねながら進めていくものです。

ご家族が一緒に取り組んでくださることで、お子さんのやる気もずっと高まります。当院では、お子さんとご家族が安心して取り組めるよう、丁寧にサポートしてまいります。

「花粉症だからしょうがない」で終わらせず、お口の育ちもあわせて守ってあげてほしい。歯科医師として、そんな思いでこの記事をお届けしました。

ご不明な点やご心配なことがあれば、どうぞお気軽にお声がけください。定期検診の際でも、ふとした疑問でも、私、小出はいつでもご相談をお待ちしています。

 

 

医療法人 エクラ会 歯科オーラルクリニック エクラ
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小出貴照

歯科オーラルクリニック エクラ院長 小出貴照

愛知県日進市にある歯医者「歯科オーラルクリニック エクラ」では、患者の皆様に安心・安全な歯科医療を提供するため、充実した設備と専門医による治療を行っています。当クリニックでは、院長の小出を含む経験豊富なスタッフが皆様の治療を担当しており、各分野の専門医が在籍しています。また、最新の医療技術を導入することで、難しい症例にも効果的に対応することが可能です。 当院は他の医療機関とも連携をとりながら運営しており、持病のある方にも配慮し、慎重かつ万全な治療を提供しています。患者の皆様が安心して通院いただけるよう、スタッフ一同心をこめてお手伝いさせていただきます。

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