認知症のイメージ
みなさんは、認知症と聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか?
おそらく、ウキウキして楽しい気分になる、ワクワクして期待が高まる。などというプラスのイメージに捉える人はほとんどいないのではないでしょうか。
ほとんどの人は、記憶障害になってたいへん、徘徊するようになって困るなどというマイナスのイメージを抱くことが多いと思います。
さて、今回は、そのようなマイナスイメージの強い認知症と歯科のお話です。
認知症は歯医者で予防できる!(◎_◎;)
認知症と歯科?何か関係があるのか?と思われる方がほとんどだと思います。
認知症になった人が、歯が悪くなっても認知症だから歯医者に行けなくなってより歯が悪くなり、結果として体全体も悪くなるという話のことでしょうか?確かにそのような話もあるのですが、今回はまた別のお話です。
最初に書いた通り、認知症には良いイメージがなく、悪いイメージばかりですよね。自分はそのような認知症にはなりたくないと思うのが普通ではないでしょうか。また、自分の家族や身近な人、自分が介護している人などが認知症になってしまうのも、やはり嫌なことですよね。
その認知症、実は、「歯科」で予防することができるのです!
今回はこの話題についてお話していきたいと思います。
認知症が歯科で予防できる?そのようなことがあるのか?認知症とは老人の病気で、年とともに脳が老化することによって引き起こされるので、予防などできないのでは?そもそも脳の問題だから歯医者とは何の関係もないのでは?と思われる方も多いと思います。
確かに、認知症は脳の関係の病気なので、歯と直接的に関係があるということではありません。なので、歯をきれいにしておいて虫歯や歯周病などが全くないような状態にしておきさえすれば100%認知症にならなくて済む、というような話ではありません。このお話は、あくまでも、歯科的な治療・対策をしておけば認知症になる確率を下げることができる、つまり、予防できるというものだということを念頭に置いて読んでいただければと思います。
歯周病が全身の病気に関係しているというお話は、以前の記事で書きました。このことも一般的にはあまり知られていないことなので、以下にでその時の記事を少し引用しておきます。
歯周病というと、歯の病気なので、なぜ全身の健康に関係するのかと思われるかもしれません。
実は、歯周病になると、口の中の細菌が、誤嚥(ごえん)や血液を経由して全身へと流れることにより、様々な疾患を引き起こすこととなるのです。
さて、気になるその疾患には、どのようなものがあるのでしょうか?
歯周病によって引き起こされる疾患には、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、低体重児出産、誤嚥(ごえん)性肺炎、骨粗鬆症、関節炎、腎炎、メタボリックシンドロームなど、多岐にわたります。
歯周病になることによって、これらの病気になってしまうとは、おそろしいものですね。
このように、歯周病が体全体の健康にまで影響してくるのです。
勘の良い方はこの時点でお気づきだと思いますが、今回話題にしている「認知症」も然りということになります。
専門的にはなってしまいますが、この点について、九州大学での最新の研究結果が報告されているので以下に引用します。
歯周病菌感染は全身の脳老人斑成分を脳内輸入させる
公開日:2020.07.03
九州大学大学院歯学研究院の武 洲准教授と大学院歯学府博士課程4年生の曾凡(ソ ハン、日本政府奨学金留学生)の研究グループは、中国北京理工大学生命学院の倪軍軍(ニイ ジュンジュン)准教授(元九州大学助教)らとの共同研究により、歯周病原因菌であるジンジバリス菌(Pg菌)を全身に慢性投与することにより、正常な中年マウスの脳外で産生される脳老人斑成分であるアミロイドβ(Aβ)が脳内に取り込まれることを初めて発見しました。Pg菌を3週間連続で投与すると、中年マウスの血液脳関門を構成する脳血管内皮細胞周囲の脳実質において、Aβが増加し、記憶障害が誘発されることを突き止めました(参考図1)。今回の発見はPg菌の全身投与が中年マウスの肝臓においてAβ産生を誘発することを明らかにした同研究グループの報告(2019/11/14九大プレスリリース https://www.kyushu-u.ac.jp/f/37543/19_11_14_01.pdf)を発展的に実証したものであり、Pg菌が全身に感染することによって末梢炎症組織でAβを誘発するとともにAβが脳内に取り込まれることを示した初めての成果です。この研究は歯周病によるアルツハイマー病の新たな関与メカニズムを示しており、歯周病の予防ならびに治療によって、アルツハイマー病の発症と進行を遅らせることが大いに期待されます。
(九州大学ホームページより引用(抜粋))
このように、歯周病が認知症の原因となることが医学的に解明され、歯周病の予防をすることによって、認知症をも予防することができるということが明らかとなりました。このことは、つまり、「歯科で認知症が予防できる」ということの証明となります。
ここまで、歯周病と認知症の関係について書いてきましたが、歯科的な観点から見た認知症予防には、もう一つあります。
さて、何だと思いますか?
それは、「咀嚼(そしゃく)、噛むこと」に関してです。
食事の時に歯できちんと噛んで食べることができる人と、ほとんど噛むことができない人では、認知症の発症リスクが1.5倍になるとの報告があります。また、厚生労働省の調べによると、歯が20本以上ある人に比べ、ほとんどなく入れ歯も使っていない人の間では、認知症の発症リスクが1.9倍になるそうです。
ではなぜそのようなことが起こるのでしょうか?
それは、歯が物を噛むときに、脳に血液を送っているからなのです。歯と歯ぐきをつなぐ組織に、歯根膜(しこんまく)というものがあります。歯で物を噛むときに、この歯根膜が沈み込みます。そして、その際に、その中にある血管が刺激されて、ごく少量ながらもそこから脳へと血液が流れ込みます。「噛む」という行為が、脳へと血液を送り込むポンプの役割を果たしているのです。そのため、しっかりと歯で物を噛んで食事のできる人は、脳へと血液を送りやすくなり、脳を活性化させることができ、その結果として認知症を発症しにくくなるのです。
このことからいえることは、普段から歯を大事にし、虫歯や歯周病で歯を無くすことがないようにするという、歯科的な対策によって、結果として認知症も予防できるということです。
さて、今回のお話はここまで。
いかがだったでしょうか。一見関係の無いように思える歯科と認知症ですが、歯科的な対策を取ることによって認知症を予防することができるということをお分かりいただくことができたでしょうか。
決して自分もなりたくなければ、周りの人にもなってほしくない認知症。簡単にできますので、まずは歯科的な対策から予防を始めてみてはいかがでしょうか。