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【歯科医師が解説】そのニキビ、歯周病が原因かも?海外の研究も認めるお口と肌の意外な関係

皆さん、こんにちは。歯科医師の小出です。

「スキンケアは念入りにしているのに、なぜか肌の調子が良くならない」「繰り返しできるニキビに悩んでいる」…そんな経験はありませんか?

皮膚科に通ったり、高級な化粧品を試したりしても改善が見られない場合、その原因は、実はお口の中にあるのかもしれません。

一見、無関係に思えるお口の健康と肌の美しさ。

しかし、近年の研究で、歯周病がニキビや肌荒れといった皮膚のトラブルに深く関わっている可能性が、国内外で次々と指摘されています。

本日は、歯科医師の立場から、歯周病がどのようにお肌に影響を与えるのか、海外の最新事例も交えながら、そのメカニズムと対策について詳しく解説していきます。

この記事を読めば、あなたの長年の肌悩みに、新たな解決の糸口が見つかるかもしれません。

そもそも「歯周病」とは?

まず、基本となる歯周病について簡単におさらいしましょう。

歯周病は、歯と歯茎の間にたまった歯垢(プラーク)に含まれる細菌が原因で引き起こされる、歯茎の炎症性疾患です。

プラークは、わずか1mgの中に1億個以上もの細菌が棲みついていると言われる、細菌の塊です。

初期段階では「歯肉炎」と呼ばれ、歯磨きの時に出血する程度の症状ですが、放置すると炎症が歯を支える骨(歯槽骨)にまで及び、「歯周炎」へと進行します。

歯周炎がさらに悪化すると、歯がグラグラになり、最終的には歯を失うことにも繋がる、非常に恐ろしい病気なのです。

日本の成人の約8割が歯周病にかかっている、あるいはその予備軍であると言われており、もはや「国民病」とも言える状況です。

多くの場合、痛みなどの自覚症状が乏しいため、気づかないうちに進行しているケースが少なくありません。

 

歯周病が肌トラブルを引き起こす3つのメカニズム

では、なぜお口の中の病気である歯周病が、遠く離れた肌にまで影響を及ぼすのでしょうか。その主なメカニズムは、大きく分けて3つ考えられます。

1. 血流に乗った細菌が全身を巡る

歯周病が進行すると、歯周ポケット(歯と歯茎の溝)で増殖した歯周病菌や、それらが作り出す毒素が、傷ついた歯茎の血管から血流に侵入します。これを「菌血症(きんけつしょう)」と呼びます。

血流に乗った細菌は、いわば全身の高速道路に乗って体内を駆け巡り、体のあらゆる臓器や組織に到達します。もちろん、皮膚も例外ではありません。

皮膚にたどり着いた歯周病菌は、そこで炎症を引き起こし、ニキビや肌荒れを悪化させる一因となります。特に、ニキビの原因菌として知られるアクネ菌は、酸素を嫌う性質(嫌気性)があり、同じく嫌気性菌である歯周病菌と似た性質を持っています。

歯周病によって口腔内の細菌バランスが崩れることが、肌の常在菌バランスにも影響を与える可能性が指摘されています。

2. 全身の「炎症反応」を増幅させる

歯周病は、お口の中だけの局所的な炎症にとどまりません。歯周病菌が血流に入ることで、体は「異物が侵入してきた」と判断し、免疫システムが作動します。この時、炎症を引き起こす「炎症性サイトカイン」という物質が全身に放出されます。

この炎症性サイトカインが過剰になると、体は常に軽い火事が起きているような「慢性炎症」の状態に陥ります。

慢性炎症は、糖尿病や動脈硬化など様々な全身疾患のリスクを高めることが知られていますが、肌もその影響を免れません。

ニキビやアトピー性皮膚炎、酒さ(しゅさ)といった皮膚疾患は、いずれも炎症が関わっています。

歯周病による慢性炎症が、これらの皮膚の炎症をさらに悪化させ、症状を長引かせる「燃料」となってしまうのです。

3. 免疫システムの疲弊

歯周病という慢性的な感染症が口の中に存在することで、私たちの体の免疫システムは、常にその対応に追われることになります。

つまり、免疫力が無駄遣いされている状態です。

その結果、本来であれば皮膚の細菌感染などを防ぐために使われるべき免疫力が低下し、肌のバリア機能が弱まってしまいます。

そうなると、少しの刺激でも肌荒れを起こしやすくなったり、ニキビができやすくなったりするのです。

 

世界も注目!歯周病と皮膚疾患の関連性を示す海外の研究事例

こうした歯周病と肌の関係は、日本国内だけでなく、海外でも多くの研究者や臨床医によって注目されています。

  • 米国での研究報告: 米国の歯科関連の情報サイトでは、歯周病とニキビ、湿疹、乾癬(かんせん)といった皮膚疾患との関連性が明確に述べられています。特に、口周りや顎のラインに繰り返しできる治りにくいニキビは、歯茎の炎症や歯の感染が原因である可能性を指摘。歯周病の原因菌が血流を介して皮膚に到達し、炎症を引き起こすだけでなく、体内のホルモンバランス(特にアンドロゲンなど)に影響を与え、ニキビの発症に関与する可能性も示唆されています。

アメリカにおける歯周病およびニキビの有病状況

指標 数値 出典
歯周病有病率(30歳以上) 47.2%(約6,470万人) Periodontal Associates
歯周病重症率(65歳以上) 70.1% Periodontal Associates
成人のニキビ経験率(生涯) 85% MDacne
年間ニキビ患者数 約5,000万人 MDacne
重症ニキビ(瘢痕を伴う)患者割合 約15% MDacne
成人女性の20–29歳におけるニキビ有病率 50.9% MDacne

これらのデータから、アメリカでは成人の半数近くが歯周病を抱え、同時にほとんどの人が何らかの時期にニキビを経験していることが分かります。

歯周病による慢性炎症が全身状態に影響し得るため、口腔ケアの徹底は皮膚トラブル予防にも重要です。

米中比較における特徴

アメリカと中国を比較してみましょう。

国・地域 歯周病有病率(30歳以上成人) ニキビ有病率(生涯経験率)
中国 重度1.9%/全体約90% 青少年最大46.8%
アメリカ 47.2% 85%

中国では重度歯周病の診断基準がより厳格である一方、何らかの歯周病症状は非常に高い割合で見られます。

ニキビについては、中国の有病率は西洋人集団よりも低いとされていますが、それでも相当数の人々が影響を受けていることが明らかです。

これらのデータは、口腔と皮膚の健康問題が中国においても重要な公衆衛生上の課題であり、歯周病による全身への影響がニキビなどの皮膚トラブルと関連している可能性を示唆しています。

  • 皮膚炎と歯周病の関係: ある研究では、難治性のアトピー性皮膚炎患者の約30%に歯肉炎が見られ、その歯肉炎を治療したところ、皮膚症状が改善したという報告があります。これは、口腔内の炎症をコントロールすることが、全身の免疫バランスを整え、皮膚の炎症を抑制することに繋がる可能性を示す、非常に興味深い事例です。
  • 乾癬(かんせん)との強い関連: 乾癬は、皮膚が赤く盛り上がり、銀白色のフケのようなものが剥がれ落ちる慢性的な皮膚疾患です。近年の研究で、この乾癬と歯周病との間に強い相関関係があることがわかってきました。歯周病を持つ人は乾癬を発症するリスクが高く、逆に乾癬患者は歯周病を悪化させやすいという、双方向の関係が指摘されています。免疫システムの異常という共通点が、両者の関連の背景にあると考えられています。

これらの海外の事例からも、口腔ケアが単にお口の健康を守るだけでなく、皮膚を含む全身の健康状態に深く寄与していることがお分かりいただけるでしょう。

肌トラブルを防ぐために。歯科医師からのアドバイス

では、歯周病を予防・改善し、健やかな肌を保つためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。日々の生活で実践できる、4つの重要なポイントをご紹介します。

1. 正しいセルフケアの徹底

基本中の基本ですが、毎日の丁寧な歯磨きが最も重要です。

  • ブラッシング: 歯と歯茎の境目に45度の角度で歯ブラシを当て、軽い力で小刻みに動かし、1本1本丁寧に磨きましょう。
  • フロス・歯間ブラシ: 歯ブラシだけでは届かない、歯と歯の間のプラークを除去するために、デンタルフロスや歯間ブラシの併用は必須です。
  • 舌磨き: 舌の表面にも細菌は付着します。舌専用のブラシで優しく清掃することも、口臭予防だけでなく口腔内全体の細菌数を減らす上で効果的です。

2. 定期的な歯科検診とプロフェッショナルケア

セルフケアだけでは、どうしても落としきれない汚れ(歯石など)があります。

3ヶ月〜半年に一度は歯科医院を受診し、プロによるクリーニング(PMTC)を受けましょう。

歯石は歯周病菌の温床となるため、定期的に除去することが非常に重要です。また、検診を受けることで、自覚症状のない初期の歯周病を発見し、早期治療に繋げることができます。

3. 生活習慣の見直し

歯周病も肌荒れも、生活習慣と密接に関わっています。

  • 食生活: 砂糖や精製された炭水化物の多い食事は、悪玉菌の餌となり、歯周病やニキビを悪化させます。野菜や果物、全粒穀物など、バランスの取れた食事を心がけましょう。
  • 禁煙: 喫煙は、歯周病の最大のリスク因子の一つです。血流を悪化させ、歯茎の治癒能力を低下させるだけでなく、肌の老化も促進します。
  • ストレス管理: ストレスは免疫力を低下させ、歯周病も肌の状態も悪化させます。十分な睡眠と、自分なりのリラックス法を見つけることが大切です。

4.【意外な盲点】歯磨きの後に顔を洗う

これは海外の専門家も推奨している、シンプルながら効果的な習慣です。

歯磨き中には、細菌を含んだ唾液や歯磨き粉が口の周りに飛び散ることがあります。

これらが肌に付着し、刺激となってニキビの原因になることも。歯磨きを終えた後に、口周りを優しく洗い流す習慣をつけることをお勧めします。

まとめ:健やかな口元から、輝く素肌へ

今回は、歯周病とニキビ・肌荒れという、意外な繋がりについて解説しました。

お口の健康は、全身の健康の入り口であり、それは肌の美しさにも直結しています。もし、あなたが長年続く肌トラブルに悩んでいるなら、一度、ご自身のお口の健康状態を見直してみてはいかがでしょうか。

「歯茎から血が出る」「口臭が気になる」「歯が長くなったように感じる」といったサインは、歯周病が進行している可能性を示しています。

肌のために皮膚科へ通うように、お口の健康のために歯科医院を頼ってください。私たち歯科医師は、お口の専門家として、皆さんの全身の健康と、輝くような笑顔、そして美しい肌を手に入れるためのお手伝いをしたいと心から願っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

医療法人 エクラ会 歯科オーラルクリニック エクラ
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小出貴照

歯科オーラルクリニック エクラ院長 小出貴照

愛知県日進市にある歯医者「歯科オーラルクリニック エクラ」では、患者の皆様に安心・安全な歯科医療を提供するため、充実した設備と専門医による治療を行っています。当クリニックでは、院長の小出を含む経験豊富なスタッフが皆様の治療を担当しており、各分野の専門医が在籍しています。また、最新の医療技術を導入することで、難しい症例にも効果的に対応することが可能です。 当院は他の医療機関とも連携をとりながら運営しており、持病のある方にも配慮し、慎重かつ万全な治療を提供しています。患者の皆様が安心して通院いただけるよう、スタッフ一同心をこめてお手伝いさせていただきます。

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