みなさん、こんにちは。日進市の歯科オーラルクリニックエクラ 歯科医師
小出です。
日本人の健康寿命は世界トップクラスですが、平均寿命との差が約10年あると言われています。多くの場合、この差には歯の健康が深く関わっています。実際、歯を失い放置したことで健康や生活の質(QOL)が大きく損なわれるケースは数多くあります。
今回は「歯を失ったら絶対に放置してはいけない理由」と「健康寿命を守るために今できること」について、歯科医師として実際の事例を交えながら、より深く詳しく解説します。
歯の本数と健康寿命の関係
歯の本数が減るほど寿命にも関わることがわかっています。
多くの研究や国の統計から、「歯の本数が多いほど健康寿命が延びる」ことが分かっています。
例えば、80歳でも20本以上自分の歯が残っている方(8020達成者)は、転倒や認知症、全身疾患のリスクが抑えられ、健康的な生活を長く送れます。
健康寿命のはの本数の統計
年齢 | 平均失った歯の数 |
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35~44歳 | 0.6本 |
55~64歳 | 3.0本 |
65~74歳 | 6.0本 |
75~84歳 | 11.2本 |
85歳以上 | 14.1本 |
この数字からも、加齢とともに歯を失うリスクが高まり、日常生活の質が左右されることが分かります。
歯を失ったまま放置することのリスク
歯を失ってしまったとき、「1本くらい無くても大丈夫」「奥歯だから見えないし…」と、そのままにしていませんか?
実は、歯の欠損を放置することは、口腔内だけでなく全身の健康や健康寿命にも大きな影響を及ぼします。
歯が無いことで起こる問題
歯を失ったまま放置することのリスク
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噛み合わせの悪化:隣接する歯が倒れ込んだり、噛み合う歯が伸びてきたりして、全体のバランスが崩れます。
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咀嚼力の低下:食べ物をしっかり噛めなくなり、消化器官への負担が増えます。
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発音障害:前歯を失うと特に、サ行やタ行などが発音しにくくなります。
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見た目の変化:歯が抜けた部分の骨が痩せて、顔つきが変わることもあります。
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認知機能や全身の健康への影響:噛む刺激が減ることで、脳への刺激も減少し、認知症リスクが高まるという報告もあります。
さらに、噛み合わせ・審美・健康への多大な影響
歯を1本でも失ったままにすると、口の中や全身に様々な悪影響が広がります。
代表的なリスク
隣接する歯が動き出す
失った部分をカバーしようと、周りの歯が傾いたり移動し、噛み合わせが悪くなる。
健康な歯に負担が集中する
噛める歯だけに負担がかかり、次々と他の歯も悪くなってしまう。
咀嚼機能が低下することで栄養バランスが崩れる
食べられる食品が限られ、結果的に栄養不足や消化不良、体力低下へつながる。
全身の病気と関連
歯周病由来の細菌が血流に乗って全身を巡り、心疾患や糖尿病の悪化リスクも。
歯を失う主な原因
なぜ歯を失うのか?
虫歯の進行
深い虫歯が神経や歯根まで達すると、やがて抜歯が必要になることもあります。
歯周病
歯を支える歯槽骨を溶かす病気で、日本人の歯を失う最大の原因。40代以降から急激に増加し、放置すると歯が次々と抜けていきます。
事故や外傷
不適切な噛み合わせや歯ぎしり
生活習慣(喫煙・間食・不規則な食事など)
歯を失ったら、必ず「歯を補う」治療を
歯を失ってしまった場合、入れ歯・ブリッジ・インプラントなどで「歯を補う」ことがとても重要です。なぜなら、歯を補う治療を継続的に受けている高齢者は、受けていない人よりも死亡リスクが低いという大規模調査の結果が出ているからです。
東京科学大学の研究グループによる全国約4.8万人の高齢者を最大9年間追跡した調査では、入れ歯やブリッジなどの歯科補綴物を継続使用していた高齢者は、使用していなかった高齢者と比べて平均3.7ポイント生存率が高く、特に歯が20本未満の人では5.9ポイントも高いことが明らかになりました。
この研究は、「歯科補綴物の継続使用が高齢者の寿命延伸に寄与する可能性」を実証的に示した初の大規模調査です。
つまり、歯を補う治療を受けることで、健康寿命が延びることが科学的に裏付けられたのです。
歯を補う治療法の選択肢
歯を失った際の主な治療法は以下の3つです。
治療法 | 特徴・メリット | デメリット |
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入れ歯 | 多くの歯を失った場合にも対応可能。保険適用で治療費が抑えられる。 | 違和感や外れやすさを感じることがある。 |
ブリッジ | 両隣の歯を支えにして人工歯を固定。見た目が自然。 | 支えとなる歯を削る必要がある。 |
インプラント | 顎の骨に人工歯根を埋め込み、その上に人工歯を装着。自分の歯のように噛める。 | 外科手術が必要。全身疾患や骨の状態によっては適応外の場合も。 |
どの治療法にもメリット・デメリットがありますので、患者さんの状態や希望に合わせて最適な方法を一緒に考えていきましょう。

Illustration of a dental bridge
歯を失わないために、定期検診が不可欠
そもそも「歯を失わないこと」が最も大切です。そのために定期的な歯科検診が不可欠です。
定期検診は、歯を失わないための最も効果的な予防策です。
自覚症状がなくても、定期的に歯科医院を受診することで、長く自分の歯を守ることができます。
定期検診の主なメリット
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虫歯や歯周病の早期発見・早期治療:初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、定期検診を受けることで早期に発見し、負担の少ない治療が可能です。
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口腔トラブルの予防:歯のクリーニングで歯垢や歯石を除去し、虫歯や歯周病を未然に防ぎます。
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全身の健康維持:歯周病は糖尿病や心筋梗塞、脳卒中などの全身疾患と関連があるため、口腔内の健康を保つことが全身疾患のリスク軽減につながります。
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健康寿命の延伸:噛む力を維持し、栄養バランスの取れた食事を続けることで、健康寿命が延びることがわかっています。
定期検診の頻度と費用
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頻度:3ヶ月~半年に1回が目安です。
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費用:3割負担で2,000円~3,000円程度で受けられます。
歯周病は「生活習慣病」の一つ
歯を失う最大の原因の一つが「歯周病」です。歯周病は生活習慣病の一種であり、糖尿病や心血管疾患、肥満など他の生活習慣病とも深い関係があります。
歯周病と生活習慣の関係
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食生活の乱れ、喫煙、過度な飲酒、睡眠不足、ストレスなどが歯周病のリスクを高めます。
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歯周病は糖尿病と相互に悪影響を及ぼし合い、血糖コントロールを困難にすることも知られています。
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歯周病の予防・改善には、適切な歯みがき+生活習慣の見直しが不可欠です。
歯周病が全身に及ぼす影響
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心血管疾患:歯周病の原因菌が血管内に入り込むことで動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。
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認知症:噛む力の低下や歯周病菌の影響で、認知症の発症リスクが高まるという報告もあります。
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早産や低体重児出産:妊婦さんが歯周病を患っていると、早産や低体重児出産のリスクが上昇します。
歯周病予防のための生活習慣チェック
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バランスの良い食事:ビタミン・ミネラル・タンパク質をしっかり摂りましょう。
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禁煙・節度ある飲酒:タバコや過度なアルコールは歯周病の大きなリスクファクターです。
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十分な睡眠・ストレス管理:免疫力を高めるために、規則正しい生活を心がけましょう。
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正しい歯みがき・定期検診:毎日のセルフケアとプロによるケアの両立が大切です。
まとめ:歯の健康があなたの未来を変える
歯を失ったら、必ず歯を補う治療を受けることが健康寿命の延伸につながります2。そして、そもそも歯を失わないためには、定期的な歯科検診と生活習慣の見直しが不可欠です。
歯周病は生活習慣病の一つであり、全身の健康と密接に関係しています。毎日のセルフケアと定期的なプロフェッショナルケアを続けて、いつまでも自分の歯で美味しく食事をし、健康で豊かな人生を送りましょう。
「最近歯医者に行っていないな…」という方は、ぜひこの機会に定期検診のご予約をお待ちしています。あなたの健康寿命を守るお手伝いを、私たち歯科医師が全力でサポートします。