皆様、こんにちは!日進市の「歯科オーラルクリニックエクラ」院長の小出です。
いつも当院のブログをお読みいただき、ありがとうございます。このブログでは、皆様のお口の健康を守るために、知っていただきたい情報をわかりやすくお伝えしています。
さて、今月のテーマは、皆さんの「お口の健康づくり」にとって、非常に喜ばしいお知らせです。
それは、2025年度の診療報酬改定によって、予防歯科の保険適用範囲が大幅に拡大されたことです。
「虫歯や歯周病になってから治療する」という従来の考え方から、「病気になる前に予防する」という予防歯科の重要性が、ようやく国レベルでも本格的に評価された結果と言えるでしょう。
今回の改定は、患者さんのお口の健康を長期的に守るための大きな一歩です。費用面での負担も軽くなり、これまで以上に予防歯科が身近なものになりました。
今回は、この新しい制度について、患者さんにとって「何がどう変わるのか」「どんな治療が受けられるのか」を、専門家である私から、できる限りわかりやすく、詳しくお伝えしていきたいと思います。少し長い記事になりますが、ぜひ最後までお付き合いください。
第1章:なぜ今、予防歯科が重要視されるのか?
まずは、なぜ今、予防歯科がこれほどまでに注目されているのか、その背景からお話しさせてください。
「歯医者さん=痛いところ」というイメージをお持ちの方も少なくないかもしれません。
しかし、歯周病や虫歯は、初期には自覚症状がほとんどありません。気づいたときには、かなり進行してしまっていることがほとんどなのです。
歯周病は、日本人の成人の約8割が罹患していると言われる国民病です。歯ぐきの炎症から始まり、歯を支える骨が溶けていき、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
さらに、歯周病菌は血管を通じて全身に巡り、糖尿病や心臓病、脳梗塞などの重篤な病気を引き起こしたり、悪化させたりするリスクを高めることが、近年の研究で明らかになっています。
つまり、お口の健康は、全身の健康と密接につながっているのです。
虫歯も同様で、一度削ってしまった歯は二度と元には戻りません。何度も治療を繰り返すうちに、歯そのものがもろくなり、最終的には抜歯せざるを得ない状況に陥ってしまいます。
このような状況を未然に防ぎ、ご自身の歯を一生涯使い続けるためには、「治療」ではなく「予防」が最も効果的で、経済的にも、そして何より身体的にも負担が少ないのです。
第2章:これまでの予防歯科と保険制度の課題
これまでの日本の歯科医療では、保険診療の多くが「病気になった後の治療」に特化していました。
もちろん、定期検診や歯周病の治療、フッ素塗布などは保険適用されていましたが、その範囲や回数には制限があり、患者さん一人ひとりの状態に合わせたきめ細かな予防管理を継続的に行うのが難しい側面がありました。
例えば、
- 専門的なクリーニング(PMTC):歯科衛生士が専用の器具を使って、普段の歯磨きでは落としきれない汚れを徹底的に除去するPMTCは、健康な歯を保つ上で非常に有効な手段です。しかし、これまでは保険適用外となることが多く、患者さんの費用負担が大きいことが課題でした。
- フッ素塗布:虫歯予防に効果的なフッ素塗布も、保険適用されるのは、小児の虫歯予防や、歯周病治療後の歯根露出部分などに限られていました。
- 定期管理の評価:患者さんのリスクに合わせた継続的な管理体制を評価する仕組みが十分ではなく、患者さんの「予防を頑張ろう」というモチベーションを支えきれない部分がありました。
これらの課題を解決し、「予防」を国民全体に広げていくために、2025年度の診療報酬改定で、予防歯科の保険適用が大きく見直されることになったのです。
第3章:2025年度、何が変わった?予防歯科の保険適用範囲が大幅に拡大!
今回の改定の最大のポイントは、「病気の進行度やリスクに応じて、より手厚く、継続的な予防管理が保険で受けられるようになった」ことです。
具体的に、皆さんに直接関係する主な変更点をいくつかご紹介します。
1. 定期管理がより手厚く、継続的に
これまでも定期管理は行われていましたが、今後は、患者さんの虫歯や歯周病のリスク、年齢、生活習慣などを詳しく分析し、個別のリスクに応じた予防プログラムが立てられるようになります。
例えば、歯周病リスクが高い方には、これまでよりも短期間での定期的なクリーニングや検査が保険で受けられるようになります。これにより、病気の早期発見・早期治療につながり、重症化を防ぐことができます。
また、一度治療が終わった方でも、再発を防ぐためのメンテナンス計画が、より個々の状態に合わせて保険で評価されるようになります。
2. PMTCが特定の条件で保険適用に!
これまで自費診療となることが多かったPMTC(専門的機械的歯面清掃)が、特定の条件を満たすことで、保険で受けられるようになりました。
PMTCは、歯科衛生士が専門の機器を使って、歯周ポケットの奥深くや歯と歯の間の歯ブラシが届きにくい部分に付着したプラーク(歯垢)やバイオフィルムを徹底的に除去する、非常に効果の高いクリーニング方法です。
今回の改定により、歯周病の治療後や、虫歯のリスクが高い方など、予防管理を目的としたPMTCが保険で評価されることになったのです。
これにより、これまで費用を気にされていた方も、より気軽に、そして定期的に専門的なクリーニングを受けられるようになります。
3. フッ素塗布の回数・対象年齢の拡大
虫歯予防の切り札であるフッ素塗布も、適用範囲が広がりました。
これまでは、一部の年齢や状況に限られていましたが、今回の改定により、虫歯のリスクが高いと判断された方であれば、年齢を問わず、より頻繁にフッ素塗布が保険で受けられるようになりました。
特に、ご高齢の方で、歯周病により歯根が露出している方や、唾液の分泌量が減り虫歯になりやすい方にとって、フッ素塗布は非常に有効な予防策です。
今回の改定で、こうした方々にも、より手軽にフッ素塗布を受けていただけるようになりました。
4. 歯周病の管理プログラムがさらに充実
歯周病は、治療が終わった後も再発しやすい病気です。今回の改定では、歯周病治療後の「SPT(Supportive Periodontal Therapy)」と呼ばれる定期的なメインテナンス管理が、より患者さんの状態に合わせて手厚く評価されるようになりました。
これにより、治療後の良い状態を長く保つための定期的な検査、クリーニング、そして歯磨き指導などが、これまでよりもさらに充実した形で保険で受けられます。
第4章:新しい制度で受けられる具体的な治療と費用は?
今回の改定は、患者さんにとって、「今までと同じ予防をしても、費用負担が少なくなる」というよりは、「これまで保険外だった質の高い予防管理が、保険で受けられるようになった」と捉えていただくのが正しいかと思います。
例えば、当院では、患者さん一人ひとりの口腔内の状態を詳しく検査し、その結果をもとに、
- 虫歯や歯周病のリスクを診断
- 個別の予防プログラムを作成
- 歯周病治療後のメインテナンス計画を立案
といったプロセスを踏んで、最善の予防管理をご提案します。
この中で、これまで自費で行っていた「PMTC」や、年齢によっては適用外だった「フッ素塗布」などが、新しい予防管理プログラムの一部として、保険適用されるケースが増えました。
結果として、患者さんの自己負担額を抑えながらも、より効果的で、きめ細かな予防管理を継続できるようになったのです。
例えば、これまでは定期検診に加えてPMTCを行うと、自費分の費用がかかっていましたが、これからは一定の条件を満たせば、PMTCを含めた予防管理が保険の範囲内で行えるようになります。
これは、日々の歯磨きだけでは限界があるプラークコントロールを、歯科のプロの力を借りて、より確実に、そして経済的な負担を抑えて行えるようになることを意味します。
第5章:新しい制度を最大限に活用するために
今回の改定は、まさに「予防歯科元年」とも言える大きな転換期です。この新しい制度を最大限に活用し、ご自身の歯を一生涯守っていくために、ぜひ以下のことを意識してみてください。
1. 「予防管理」の定期的な受診を習慣に
「痛くなったら歯医者に行く」という考え方を捨てて、「定期的にお口の健康チェックをしてもらう」という意識に切り替えることが最も重要です。当院では、お一人お一人に合った受診間隔(3ヶ月ごと、4ヶ月ごとなど)をご提案しています。
2. 「かかりつけ歯科医院」を持つことの重要性
今回の新しい制度は、継続的な予防管理を前提としています。そのため、ご自身の口腔内の状態を長期的に把握し、適切なアドバイスをくれる「かかりつけ歯科医院」を持つことが非常に重要になります。
第6章:保険適用で白い歯に
保険診療で「白い歯」を入れることができる範囲は、近年大きく拡大しています。2025年現在、ほぼすべての歯に対して条件を満たせばCAD/CAM冠やPEEK冠などの白い素材が保険適用となり、より多くの患者さんが銀歯を白くする選択肢を得ています。
保険適用の白い歯の適応範囲
保険で使える白い被せ物には主にCAD/CAM冠とPEEK冠があります。
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前歯:ほぼすべて保険適用で白い歯が可能です。
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小臼歯(4・5番):条件なしで保険適用。
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大臼歯(6・7・8番):CAD/CAM冠は咬合支持(噛み合わせの安定)が条件となりますが、PEEK冠は条件なしで適用可能です。金属アレルギー診断があればさらに拡大されます。
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ブリッジ:特定条件下で保険適用されます。
CAD/CAM冠とPEEK冠の違い
項目 | CAD/CAM冠 | PEEK冠 |
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素材 | ハイブリッドレジン(樹脂+セラミック微粒子) | PEEK樹脂(高強度エンジニアリングプラスチック) |
適応範囲 | 基本的に小臼歯、大臼歯は咬合支持条件あり | 大臼歯(6,7,8番)条件なしですべて適応 |
審美性 | 白く自然な色味 | アイボリー色でやや審美性は劣る |
強度 | 小臼歯なら十分、大臼歯では割れやすい場合あり | 大臼歯でも破折リスクが低い高強度 |
保険適用時期 | 2014年〜条件拡大 | 2023年12月〜新品目として追加された |
その他特徴 | 着色・摩耗への耐性あり、金属アレルギー対応 | 軽量・生体適合性が高い |
松風株式会社のCAD/CAM冠(製品情報)
松風のCAD/CAM冠用ブロック(HCスーパーハード)は、大臼歯の保険適用基準に適合した高強度・高審美性の樹脂ブロックです。
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曲げ強さ301MPa(規格値240MPa以上)
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無機成分76%
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ビッカース硬さ138(規格値75以上)
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吸水量11.6μg/㎣(規格値20以下)
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浸水後でも優れた物性を維持
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耐着色性が高く、長期間美しさを保てる
これらは、工場レベルで高度な重合が施されており、耐摩耗性・耐着色性に優れるため、長期間にわたり審美性を維持できます。色調は多色展開があり、前歯・小臼歯・大臼歯に適したグラデーション設計となっています。
補綴装置装着イメージ
エンドクラウンについて
エンドクラウンは、従来の支台築造とクラウン修復物が一体になった保険診療用クラウンです。
根管治療後の大臼歯(6・7番)に適応されます。小臼歯や前歯には保険算定できません。
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髄室への延長部(髄腔保持部)により十分な厚みが確保、咬合圧が大きな場合にも対応可能。
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CAD/CAM冠と同様、施設基準を満たした医療機関のみ保険適用が可能です。
CAD/CAM冠の注意点(患者さま向け)
保険治療でCAD/CAM冠を装着した場合、割れたり壊れたりしても2年間は再製作が保険適用されません。
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一度装着後、2年間は保険で作り直すことができません。万が一破折した場合は自費治療となるため、特に噛みしめや歯ぎしりの強い方は注意してください。
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食いしばりや強い力がかかる位置には慎重に適応を考える必要があります。
保険診療で白い歯への置換範囲は広がりつつありますが、使用する材料ごとに適応条件や注意点があります。
強度ならPEEK冠、審美性ならCAD/CAM冠、両方を望むなら自由診療を推奨しております。
CAD/CAM冠とPEEK冠の違い、松風株式会社の製品特性、エンドクラウンの適応部位、保険治療の2年ルールなど、患者さんにとって分かりやすく情報をお伝えさせていただいております。なんなりとご質問ください。
ジルコニアのご紹介(保険適応外)
ジルコニアは、歯科治療において近年、非常に注目されている素材です。その特徴を一言で表すならば、「人工ダイヤモンド」と称されるほどの高い強度と、天然歯に近い美しさを兼ね備えたセラミックの一種です。
ジルコニアは、正確には二酸化ジルコニウムという物質で、セラミック(陶器)の一種です。工業分野では、スペースシャトルの外壁や人工関節、包丁など、高い強度や耐久性が求められる分野で幅広く使用されています。この優れた特性を歯科医療に応用したのが、ジルコニアを用いた治療です。
ジルコニアのメリット
ジルコニアが歯科治療で選ばれる最大の理由は、その多岐にわたるメリットにあります。
- 圧倒的な強度と耐久性
- 従来のセラミックは、強い力がかかると割れたり欠けたりするリスクがあり、特に奥歯の治療には不向きな面がありました。
- しかし、ジルコニアは金属に匹敵するほどの強度を持つため、噛み合わせの強い奥歯や、歯ぎしり・食いしばりのある方にも安心して使用できます。長期間の使用にも耐え、破損のリスクを大幅に低減します。
- この強度によって、金属のフレームを使わずにブリッジ(連結した被せ物)を作ることも可能になりました。
- 優れた審美性
- ジルコニアは白い素材であり、光を透過させることで天然歯に近い透明感と自然な色合いを再現できます。
- 近年では、より透明感を高めた「高透過性ジルコニア」も開発され、前歯のような審美性が求められる部位にも広く使われるようになっています。
- 金属を使用しないため、歯ぐきが黒ずむ「ブラックマージン」の心配がありません。また、長期間使用しても変色しにくいという利点もあります。
- 生体親和性の高さ(メタルフリー)
- ジルコニアは金属を一切含まないため、金属アレルギーのリスクがありません。
- 体に非常に馴染みやすい素材であり、アレルギー体質の方でも安心して使用できます。
- また、金属冠のように唾液によってイオンが溶け出すことがなく、安全性が高い素材です。
- 汚れがつきにくく衛生的
- ジルコニアの表面は非常に滑らかで、プラーク(歯垢)や汚れが付着しにくい性質があります。
- これにより、虫歯や歯周病の再発リスクを抑えることができます。
- 熱伝導率の低さ
- ジルコニアは熱が伝わりにくいため、冷たいものや熱いものを食べたときに歯に不快な刺激を感じにくいという利点もあります。
ジルコニアのデメリット
一方で、ジルコニアにもいくつかのデメリットがあります。
- 硬すぎるがゆえのリスク
- ジルコニアは非常に硬いため、噛み合う天然歯を摩耗させてしまう可能性があります。
- これを防ぐためには、精密な噛み合わせの調整が不可欠です。
- 加工の難しさ
- 非常に硬い素材であるため、削ったり研磨したりといった加工が難しく、専門的な知識と技術が必要となります。
- 治療後の微調整や再修理も困難な場合があります。
- 保険適用外
- ジルコニアは、基本的に保険適用外の自費診療となります。
- そのため、治療費は比較的高額になる傾向があります。
ジルコニアの種類
一口に「ジルコニア」と言っても、その種類は様々です。主なものをいくつかご紹介します。
- フルジルコニア(オールジルコニア):
- ジルコニアのみで作られた単層構造の被せ物です。
- 強度が最も高く、特に力がかかる奥歯の治療に適しています。
- 透明度はやや劣るため、単色で制作することが多く、審美性よりも強度を重視する場合に選択されます。
- ジルコニアセラミック(ジルコニアボンド):
- ジルコニアのフレームの上に、透明感の高いセラミックを焼き付けて制作した二層構造の被せ物です。
- ジルコニアの強度と、セラミックの優れた審美性を兼ね備えています。
- 天然歯と見分けがつかないほどの自然な仕上がりになるため、特に前歯の治療で多く使用されます。
- マルチレイヤージルコニア:
- 複数のジルコニアを重ねて作られた被せ物で、歯の根元から先端にかけて色調や透明度がグラデーションになっています。
- 単一素材でありながら、天然歯の複雑な色合いや透明感を再現できるため、非常に審美性が高いです。
どのような場合にジルコニアが適しているか
ジルコニアは、以下のような方にお勧めできます。
- 奥歯の銀歯を白くしたい方
- 歯ぎしりや食いしばりがある方
- 金属アレルギーをお持ちの方、または金属アレルギーが心配な方
- 強度と審美性の両方を求められる方
- 長期間にわたって安定した被せ物を入れたい方
- ブリッジ治療を金属を使わずに行いたい方
ジルコニアは、歯科治療における革命的な素材であり、その高い強度と美しい審美性、生体への優しさから、多くの患者様にとって最適な選択肢となりつつあります。
しかし、どの素材にもメリット・デメリットがあるように、ジルコニアも万能ではありません。治療部位や患者様の口腔内の状況、ライフスタイルに合わせて、最適な素材を選択することが重要です。
おわりに:日進市の皆様へ
今回の診療報酬改定は、私たち「歯科オーラルクリニックエクラ」が長年掲げてきた「日進市の皆さんの歯を一本でも多く守り、一生涯にわたって健康で豊かな食生活を送っていただく」という理念を、国が後押ししてくれたような、そんな気持ちにさせてくれます。
新しい制度について、もしご不明な点がございましたら、いつでもお気軽にスタッフまでお声がけください。
私たち歯科医療従事者は、皆さんの「予防管理」のパートナーです。これからも、一人でも多くの方が、ご自身の歯で美味しい食事を楽しみ、笑顔で過ごせるよう、全力でサポートさせていただきます。
皆様のご来院を心よりお待ちしております。