口の中にカビ!?と聞いて驚かれる方も少なくないと思います。
ここでの「カビ」とは、真菌とも呼ばれる微生物の一種であり、細菌やウイルスと同じく、私たちの身の回りに存在しています。
真菌には、有用なものもあれば、有害なものもあります。有名な有害な真菌による病気としては、水虫があります。
真菌(カビ)ってどんな菌なの?
真菌は、酵母、糸状菌(いわゆるカビのこと)、キノコを含む生物群で、動物の次に進化した、実は高等な生物です。真菌は植物でも動物でもなく、その大きさは顕微鏡でようやく見えるものから肉眼で容易に見えるものまで様々です。かつては植物と考えられていましたが、現在では独自の区分(界)に分類されています。
真菌は次の2つの形態で発育します。
- 酵母:単独でみられる円形の細胞
- カビ(糸状菌):多数の細胞で形成される細長い糸状の構造(菌糸)
ライフサイクルの中で両方の形態を取るものもあります。多くの場合、真菌は土壌や腐敗した植物の中で増殖します。パンのカビやキノコ類など多くの真菌は、肉眼で見ることができます。
真菌は極めて小さな胞子を飛散させることで繁殖します。このような胞子は空気中や土壌中に存在していることが多く、体内に吸い込まれたり、皮膚などの体表面と接触したりします。
そのため、真菌感染症は通常、肺や皮膚から始まります。
一部の真菌は人に感染症を引き起こします。免疫機能が低下していない限り(通常は薬や病気によって生じる)、重篤な真菌感染症はまれです。この感染症は通常はゆっくり進行します。
抗真菌薬は、感染部位に直接塗ることもあり、重篤な場合は、内服や注射で投与する場合もあります。
歯周病が全身疾患に関与
歯周病が全身の健康に影響を及ぼすという事実は、歯科医療の現場でも重要な課題となっています。以下に、その主な理由を説明します。
- 歯周病菌と全身疾患: 歯周病は、口腔内の細菌が歯肉から血流に入り、全身に影響を及ぼす疾患です¹。歯周病菌は、炎症により損傷した歯周ポケット上皮から組織内に侵入し、全身循環を介して遠隔組織に影響を及ぼします。
- 歯周病と糖尿病: 歯周病は糖尿病の合併症の一つとされています。歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという逆の関係も明らかになってきています。歯周病治療で糖尿病も改善することも分かってきています。
- 歯周病と心臓病・脳血管疾患: 歯周病は心筋梗塞や狭心症などの原因となる動脈硬化症と関連していることが報告されています。
- 歯周病と誤嚥性肺炎: 歯周病菌の中には、誤嚥により気管支から肺にたどり着くものもあり、高齢者の死亡原因でもある誤嚥性肺炎の原因となっています。
これらの事実は、歯周病が全身の健康に影響を及ぼす可能性を示しています。
したがって、歯科医療の現場では、口腔内の健康維持が全身の健康に寄与すると考えられています。また、これらの知見は、歯周病の予防・治療が全身の様々な病気のリスクを下げる可能性を示しています。
歯周病と腸内細菌の関係について
口腔内には少なからず真菌が棲息しています。(歯周ポケットには存在しないかもしれません)
これらの真菌はたえず、常在菌とせめぎあって、なんらかの拍子に菌交代症として異常増殖し病原性を発揮します。
私たちはこれらの真菌群を飲み込んでいると想像されます。
近年、歯周病が引き起こす影響は、腸内細菌叢の変動を通じて生じるという仮説が提唱されています、また、真菌は常在細菌叢(じょうざいさいきんそう)に少からず影響を与えていると考えられます。
重度歯周炎の唾液中の歯肉縁下細菌量は全体の0.5%未満であると言われる。また、口腔内では常在細菌叢と真菌群が常にせめぎあっている。
引用:日本歯科医師会
常在菌について
常在菌(じょうざいきん)とは、人の体内に存在する微生物のうち、多くの人に共通して見られ、普段は病原性を示さないものを指します。
これらの菌は、胎児の間は無菌状態ですが、生まれた瞬間から皮膚、気道、消化管などをはじめ、全身で多くの菌が増え始めます。
常在菌は体の決まった場所に集団で存在しており、侵入した病原微生物の繁殖を抑制する効果もあります。
人と常在菌は「共生関係」にあると言えます。
例えば、鼻腔には黄色ブドウ球菌、皮膚には表皮ブドウ球菌、口腔、咽頭、喉頭には肺炎球菌、レンサ球菌、大腸にはバクテロイデス、ビフィズス菌、膣にはデーデルライン桿菌などが存在します。
しかし、免疫が低下すると、常在菌が一気に増えてしまうことがあります。治療で薬を服用した結果 菌のバランスが崩れ、常在菌が異常に増えて感染症を引き起こすこともあります。
そのため、抗菌薬を適正に利用することや、院内感染の防止を徹底することが大切です。
また、菌交代現象という、抗菌薬の常用で目的とする病原菌は減少・消失するものの、代わりに異常に増殖した微生物が新たな問題を引き起こすこともあります。
これらの情報を踏まえ、常在菌について理解を深めることが重要です。
腸内細菌について
腸内細菌とは、人や動物の腸の内部に生息している細菌のことを指します。ヒトでは、種類は500~1000とも約3万とも言われ、大腸には40兆、小腸には1兆の細菌が存在するとされています。
これらの細菌の総重量は約1.5kg-2kgと推計されています。
これらの細菌は全体として腸内細菌叢(腸内フローラ)と総称され、各細菌は相互および宿主であるヒトとの間の代謝物のやり取りなどを通じて複雑な生態系を形成し、ヒトの生理や病気の発生に深く関わっています。
腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つに分けられています2。善玉菌は腸の中で発酵活動を行い、腸内を弱酸性に保ちます。
一方、悪玉菌は腐敗活動を行います。日和見菌は腸内細菌の7割を占め、善玉菌が優勢な状態であれば善玉菌につき、腸内で発酵活動を行います。
腸内細菌のバランスは、食生活や生活環境、母親の腸内環境などに影響を受けます。また、腸内細菌のバランスが崩れると、ヒトの脳をはじめ、心臓、関節など一見腸とは関わりがなさそうに見えるあらゆる部位の病気に発展する可能性があります。
健康寿命について
厚生労働省が、2019年健康寿命の最新データを発表しました。
男女共に延伸しており、男性は72.68歳(2016年調査より+0.54歳)、女性は75.38歳(同じく+0.59歳)。
2019年の平均寿命は、男性が81.41歳(2016年は80.98歳で+0.43歳)、女性が87.45歳(同じく87.14歳で+0.31歳)。
健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいい、2019(令和元)年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。
平均寿命と健康寿命の推移
引用:e-ヘルスネット
「お口の中の健康が体全体の健康に直結することが証明されています。
日本における誤嚥性肺炎による死亡者数は、2022年において5.6万人となっています。1日当たり153人の命を奪った誤嚥性肺炎は、お口の汚れと嚥下機能の低下に関係するとされています。
引用:厚生労働省
この数字は、日本人の死亡原因において第6位に位置しており、高齢者の健康にとって重要な問題となっています。
お口の汚れで発症する歯周病や虫歯などによる口腔内の炎症や感染は、全身の炎症を刺激し、慢性疾患を促すことになります。
具体的には糖尿病、脳梗塞、心臓血管疾患、がん、認知症などに影響し、同時に糖尿病が歯周病を悪化させることが報告されています。
歯周病と虫歯の予防には、「カビ」ケア
歯周病と虫歯の予防には、「カビ」ケアが非常に重要です。実際に、お口の中には細菌と共にさまざまな真菌(カビ)が生息しています。
これらのカビが多い口腔内の歯垢は、病原性の強い嫌気性菌の割合を増加させ、ネバネバして歯磨きをしても取りにくい歯垢になります。
一方、カビが少ない場合は清掃しやすい歯垢になる傾向があります。つまり、口の中のカビを少なくすることで、虫歯や歯周病の原因となる歯垢を変えることができるのです。
歯垢は歯周病にも関係しています。歯垢内の酸素が少なくなると、酸素を嫌う嫌気性菌が増加します。
この嫌気性菌は歯肉を攻撃して炎症を引き起こし、歯周病が発症する原因となり、口臭も引き起こすことがあります。
歯垢を除去するためには、歯間ブラシやフロスを使って歯と歯の間の食べかすを取り除くことが重要です。
また、歯磨きで歯垢を機械的に取り除くことや、歯科医院で歯石を除去することも効果的です。これらの対策は虫歯や歯周病の予防につながり、全身の健康にも影響します。
実際に、抗真菌剤の長期使用が歯垢量を減らし、歯垢の粘着性も低下させることが明らかにされています。
歯垢を悪化させない
多くの高齢者が歯磨きを続けているにもかかわらず、日本人の2人に1人が歯周病に罹患しており、大人の虫歯も依然として多発している現状です。
具体的には、歯垢(プラーク)が口腔内で最も問題となります。唾液の質と量が低下すると、歯の表面では虫歯菌であるミュータンス菌などが食べかすを分解して、ネバネバした物質であるグルカンを生成します。
このグルカンが歯垢となります。歯垢内で増殖した細菌は糖分を分解し、酸を分泌します。
この酸が歯の表面を溶かすことで虫歯が発生します。
虫歯は放置すると歯の歯髄が感染し、根に膿がたまり、最終的には歯が抜けることにつながります。
私たち医師は、歯と歯の間の食べかすを除去するための歯間ブラシやフロス、歯垢を機械的に取り除く歯磨き、歯垢が口腔内のカルシウムと結びついてできる歯石の歯科医院での除去(プロケア)などの重要性を強調しています。
これらの対策は虫歯や歯周病の予防につながり、全身の健康にも影響を及ぼすことを理解していただければ幸いです。
まとめ
口の中のカビを少なくできれば、虫歯や歯周病の原因となる歯垢を変えることが可能になります。
歯垢は歯周病にとても関係しています。歯垢内に酸素が少なくなると、酸素を嫌う嫌気性菌が多くなります。この嫌気性菌は歯肉を攻撃して炎症が起き歯周病が発症し、口臭の原因にもなります。
「歯と歯の間の食べかすを除去するための歯間ブラシやフロス、歯垢を機械的に取り除く歯磨き、歯垢が口腔内のカルシウムと結びついてできる歯石の歯科医院での除去、などの重要性を私たち歯科医師が強調するのは、これらが虫歯や歯周病の予防につながるからです。それはひいては全身の健康に関係しています。
健康寿命を延ばすために、日常的な口腔ケアを大切にし、自分の歯を20本以上保つことを目指しましょう。