連続してお届けしている、呼吸についてのお話。今回は睡眠時の呼吸について考えます。
睡眠をとることは、体の修復や記憶回復のために不可欠
睡眠には、脳や体の疲れをとるだけではなく、記憶を整理し、体の成長を促し、傷ついた細胞を修復するという大切な役割があります。
その役割を果たすために睡眠には、十分な時間(量)、安定性(質)、規則正しい睡眠(リズムまたはタイミング)が必要となってきます。
字面ではわかってはいるものの、実際、この三点をしっかり守りつつ睡眠を取れている人は多くないはずです。
日本人、特に子供たちや就労者の睡眠時間は世界で最も短いと言われています。とりわけ女性は家事や育児の負担が大きいため男性よりもさらに睡眠時間が短く、平日・週末を問わず慢性的な睡眠不足状態にあると言えます。
慢性的な睡眠不足は日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。一例を挙げれば、健康な人でも一日10時間たっぷりと眠った日に比較して、寝不足(4時間睡眠)をたった二日間続けただけで食欲を抑えるホルモンであるレプチン分泌は減少し、逆に食欲を高めるホルモンであるグレリン分泌が亢進するため、食欲が増大することが分かっています。
ごくわずかの寝不足によって私たちの食行動までもが影響を受け、糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっています。睡眠は取れる時に十分な時間、しっかり取ることが重要なのです。
質のいい睡眠と呼吸
十分な時間の睡眠時間を確保したところで、質のいい睡眠が取れていないと全く意味がありません。
睡眠の質とは、何時間寝たかという量の考え方ではなく、睡眠の深さに基づく考え方とされています。
睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠という役割の異なる2つの状態が、交互に何度も繰り返されます。
ノンレム睡眠の脳は休息状態にあり、脳の老廃物の除去が活発になります。
またノンレム睡眠中は、細胞の修復、代謝促進の働きがある成長ホルモンを分泌します。
睡眠の質は、起床時の眠気や疲労感で測る深い眠りに関係していることが知られています。
十分な睡眠をとっていても、加齢、ストレス、過度の飲酒などが原因で睡眠が浅くなると、熟眠感は低下してしまいます。健康な生活を送るためには、十分な睡眠時間をとることだけでなく、睡眠の質を高めることが重要なのです。
ではどのような睡眠が質の悪い睡眠と言えるでしょうか。
大脳を休めるノンレム睡眠時には脳は活動を弱め、呼吸や心拍数も低下しています。ですが、体を休めるレム睡眠時には、脳はかなりの覚醒状態にあるのです。体は寝ていても半分起きているような状態のため、夢を見たり、中途覚醒と言って途中で起きてしまう状態になったりするのです。深い眠りに落ちずに途中で目が覚めてしまう状態、これでは質がいい睡眠が取れているとは言えません。
このような状態を引き起こす要因の一つに『呼吸』があげられます。
就寝時は、口が開きやすい、唾液が減るという状態になるので、起きている最中に鼻での呼吸を意識していても、無意識に口呼吸に切り替わっていたりすることがあったりするのです。
口での呼吸は、寝ている最中に次のような悪影響をおよぼしてしまう可能性があります。
・ドライマウス
・いびき
・歯周病の悪化
・口臭
・無呼吸症
・病巣疾患(病巣感染症)
これらは口呼吸状態から引き起されるとされており、これに室内の乾燥や温度低下などが加わると質の良い睡眠は取れません。
気道を閉鎖させる口呼吸
老化や肥満、病気などの影響で口の周りの筋肉(口輪筋)が弱ってくると、睡眠中に口を開けて呼吸するようになってしまいます。口の周りの筋肉と舌を支える筋肉はつながっています。
口の周りの締りがなくなると、睡眠中に舌を支えていられなくなり、ダランと下がった舌根が気道を圧迫して呼気の通り道を狭くしてしまいます。いわゆる「窒息」した状態になるのです。
ひどくなると、完全に呼吸が止まってしまいます。睡眠中に一定回数以上、無呼吸状態になる症状を閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)といいます。
閉塞型睡眠時無呼吸症候群は脳血管障害のリスクを高めると言われ、健康な人と比較して、脳卒中になりうる危険性が10.8倍も増すと言われています。
筋肉を引き締めて「口を閉じる」には・・・
口呼吸の場合、鼻呼吸の時よりも咽頭が狭くなるため、上気道が閉塞しやすい状態になります。
また、口を開けて寝ることでだ液が蒸発してしまい、本来持っている殺菌・消毒作用が発揮できません。その結果、口の中に雑菌や老廃物が増え、細菌やウイルスが付着しやすくなるのです。
起床後は口がかわいて喉がヒリヒリしたりすることが多く、これらは口臭やのどの炎症へと繋がっていきます。
鼻呼吸を心がけるというよりもまず第一に、睡眠時に口を閉じることで口腔内の浄化作用が高まります。
口を閉じるための口内筋肉を鍛えるために以前ご紹介したあいうべ体操を実践してみたり、夜にはマウステープを利用して物理的に口を閉じてしまうことも効果的です。
マウステープに関するおもしろい研究を紹介します。
薬剤によって睡眠状態にさせられた睡眠時無呼吸症候群の患者さんに、マウステープを貼って気道がどのように変化するかを調べた研究です。これによると、マウステーピング後およそ40%の患者さんの気道の開きが大きく改善することがわかりました。 とくに奥舌部の気道面積は10%の改善がみられました。
マウステープをすることで、「翌朝からグッスリ眠れた」 「中途覚醒がなかった」 「夜間尿がなかった」「イビキが減った」などの喜びの声も聞かれるほどです。
このように、マウステープは口腔内環境を整えることに非常に効果的であると言えます。
鼻呼吸で質の良い睡眠を!
今回は睡眠時における鼻呼吸の重要性とそのための対策についてお伝えしました。
睡眠の質を高めるために、ぜひ鼻呼吸を活用してみてください。
以下の記事で、「なぜ口呼吸がよくないのか!」についても解説しているので、こちらの記事もぜひ併せて読んでみてくださいね。
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日進市の「歯科オーラルクリニック エクラ」は、このあいうべ体操に関してのプロフェッショナルを意味する、「息育(そくいく)指導士」の資格を保持しています。唾液の分泌にお悩みの方や、口腔内の乾燥が気になった方、呼吸の仕方に関して少しでも違和感がある方のお悩みにもしっかりお応えいたします。
口呼吸を脱却し、鼻呼吸を定着させたい方、あいうべ体操のやり方を知りたい方も、是非お気軽にご相談ください。