最近、口が開けにくいとか、耳の下のあたりに痛みを感じる。
食事をしているときに、あれっ?ものを噛んだらなんだか痛い。
あくびをしたら「カックン」「ゴリゴリ」と変な音がして、口をなかなか閉じることができない。最近なんだか肩こりがひどい。
身体全体のあちこちが痛くてやる気が出ない。鏡(かがみ)を見ると顔の歪み(ゆがみ)が気になる。歯並びは悪くない方だったのに、少しズレてきたような気がする。
例をあげればキリがありませんが、こんな症状が気になったり、違和感(いわかん)や痛みがひどいのに、どうすればいいのかわからない。そんな悩みはありませんか?
あなたを悩ませているその原因は【顎関節症】(がくかんせつしょう)かも知れません。
顎関節症(がくかんせつしょう)とは
顎(あご)は複雑に入り組んだ形と多くの機能をもっています。
この部分には筋肉と関節と神経が集中し、下顎(したあご)をささえる役割があり、食事や会話をする時にはそれらが連動して動いているのです。
そしてこの顎(あご)の関節や、そのまわりの組織が何らかの原因で痛みや動きにくくなるなど、障害や変形を起こすのが【顎関節症】(がくかんせつしょう)です。
近年、顎(あご)の関節の不快感を訴える方が増加しています。
顎(あご)が思い通りに動かず違和感を感じる、食べ物を噛んだ時に痛みがある、顎(あご)を動かすと「カックン」「ゴリゴリ」「ジャリジャリ」「みしみし」などの不快な音がする。さらに症状は顎(あご)ばかりではなく広範囲にわたり、肩こりや腕・指のしびれ、偏頭痛(へんずつう)、耳や鼻の不快感を訴える方もいます。
このように症状は身体のさまざまな部位にに出現し、人によって軽い症状から重い症状まで、個人差が大きいのが特徴です。
何歳くらいの人がなりやすい?
※下記文章は一般社団法人日本顎関節学会 編 顎関節症治療の指針 2018より抜粋
http://kokuhoken.net/jstmj/publication/file/guideline/guideline_treatment_tmj_2018.pdf
平成28年の厚生労働省による3,665人を対象とした歯科疾患実態調査(しかしっかんじったいちょうさ)によると男性よりは女性の方が自覚しているパーセンテージが高く、年代的には20代から40代に多くみられるようだ。
一般社団法人 日本顎関節学会(にほんがくかんせつがっかい)編、
顎関節症治療(がくかんせつしょうちりょう)の指針 2018より引用した下記グラフを参考にして頂きたい。
顎関節症(がくかんせつしょう)の罹患状態(りかんじょうたい)
平成 28 年の厚生労働省歯科疾患実態調査(しかしっかんじったいちょうさ)によれば,「口を大きく開け閉めしたとき,顎(あご)の音がありますか」に「はい」と回答した対象者は,550/3,655 で,約 15.0%8であった(男性 183/1,583 人〈11.6%〉;女性 367/2,072 人〈17.7%〉)。
また,「口を大きく開け閉めしたとき,顎(あご)の痛みがありますか」に「はい」と回答した対象者は,121/3,665 人で,約 3.3%であった(男性 40/1,583 人〈2.6%〉;女性 81/2,072 人〈3.9%〉)であった(図1,図2)4)。
また,財団法人(ざいだんほうじん) 8020 推進財団(すいしんざいだん)による全国成人歯科保健調査(2007 年)が,成人女性(乳幼児歯科検診児の母親 2,786 名,平均年齢 31.4 歳17~46 歳〉)を対象に行われており,「口を大きく開け閉めしたとき,顎(あご)の痛みがありますか」という質問に「はい」と回答したのは 3.5%であった3)。
女性と男性どちらが多い?
※下記文章は一般社団法人日本顎関節学会 編 顎関節症治療の指針 2018より抜粋
http://kokuhoken.net/jstmj/publication/file/guideline/guideline_treatment_tmj_2018.pdf
一方,2005 年と 2006 年に実施した約 1,000 名の東京都内の就労者をスクリーニング質問で評価した場合,顎関節症(がくかんせつしょう)の疑いは男性 14.6%,女性 21.2%,1項目評価(2006年のみ)では男性 15.5%,女性 24.5%であり,1,969 名の同一企業での4項目も用いた調査では 22.6%に顎関節症(がくかんせつしょう)の疑いがみられている)。
原因
従来、上下の歯の噛み合わせの異常による場合が多いと考えられてきましたが、近年の研究により生活習慣や外傷、ストレスなど様々なことが原因になっていることがわかってきました。
・頬づえや歯ぎしり
・顎関節そのものの構造上の問題
・顎関節に打撲など外傷を受けたことがある
・唇や頬の内側を噛む癖
・歯を食いしばる癖
・片側の歯で偏った噛み方の癖
・うつ伏せ寝や猫背の習慣
・スマホやパソコンの長時間の使用
その他にも日常生活での何気ない習慣や癖も原因の一つになっていると考えられます。
また精神的緊張やストレスがあごの周りの筋肉を緊張させ噛み合わせがアンバラスになり、無理な力が関節にかかり顎関節(がくかんせつ)に負担をかけることもわかっています。
どうして頬ずえや歯ぎしりがいけないの?
では上記に揚げた頬ずえや歯ぎしりなど、日常生活における習慣や癖がなぜ顎関節症(がくかんせつしょう)の原因になってしまうのか、もう少し深掘りしてみましょう。
歯科で「咬合(こうごう)」といわれている「咬み合わせ」は身体・全身にとって大きな影響を及ぼしています。からだは地球の重力に拮抗(きっこう)してバランスを保ちながら立っています。
従って咬み合わせがズレると、身体のどこかがそれを補正するためにひずむこともあります。私は上と下の歯が、歯車のように咬み合って出来る咬合(こうごう)は、頭とからだをつなぐ要(かなめ)の役目をしていると考えています。
今、その要(かなめ)がズレている方が増えています。これは生活習慣の変化と、かむことが減少したことが、大きく関係していると思っています。
歯科で問題となるよくない生活習慣の内、多いのは頬づえと寝方でしょう。ラーニングハビットとスリーピングハビットとも言います。 長時間持続してねじる力をからだに加えることはよくありません。
骨は一過性の強い力には強いのですが、持続的な弱い力には弱くて、力が加わった側には吸収細胞が、引っ張られた側には造骨細胞が出て来て骨の改造現象がおこります。その性質を利用したのが、歯科では歯列矯正治療です。歯は5g位の力でも持続的に加われば動きます。
従って人間の頭の重さは成人で5kg前後あるので横向き寝やうつぶせ寝で歯列を押さえた形で寝ると、歯が動いて歯並びが悪くなって行きます。奥歯が傾れると前歯がせりだして来たり、それにつれて顎(あご)自体がずれて、顔も左右非対称になってくることもあります。 歯周病のある方は歯の動揺がひどくなったり、歯がしみたりする原因にもなります。頬づえも同じです。顎の関節にもひびきます。
顎の関節が開閉口するたびにカクカクいう、痛みがあって、あけにくい、などの症状のある方を顎関節症といいますが、 7、8割位の方がほほづえや睡眠態癖の生活習慣に関係しています。生活習慣を改善していただくだけで症状が軽減する方もたくさんあります。 また、反対に言えば顎関節症は生活習慣に気をつけなければどのように治療をしても再発したり、なかなか完治しないことが多いといえます。
顎関節症は顎の関節を上方や後方に長時間押しつけることによっておこることが多いので、そのような力がかかる生活習慣は止めましょう。
口腔(こうくう)にとっての他のよくない生活習慣は、お子さんが体操ずわりをするときにひざの上にあごをのせることや、 机の上にあごをのせるなどもよくありません。かみあわせを深くします。 下の顎の本来の成長を阻害して、 前方への成長が後方に変えられてしまったりします。下の顎が大きく前に出てくる下顎前突の治療に、 小さいときからチンキャップという下顎が出ないようにする装置がありますが、それをはめているのと同じになります。
他にはいつも重いショルダーを同じ肩にかけるとか、唇をまきこむくせや舌で歯をおしたり、舌をはさんだりするくせや、 指しゃぶりもよくありません。おしゃぶりもよいとは思いません。かみあわせが悪くなると顎がスムーズに動かなくてくいしばったり、 片方だけでかむ、かみぐせがついたりしますから、肩こりがする、頭が重たい、頭が痛い、疲れやすいなどの症状が出る方もあります。 常時くいしばるというのは重い荷物をいつも持っているのと同じで、 リラックス出来ないので疲れます。片方がみなどのかみぐせも、 顎がずれる原因になります。あごがずれて下顔面が非対称になるのも、からだのバランスをくずしますので、腰にひびいたりすることもあります。 もちろん、歯が抜けたまま放っていたり、歯並びが悪くて、うまく咬めないなども、全身に影響が出ることはあります。
症状
顎関節症(がくかんせつしょう)の障害は、大きくわけて4つの場所で起きています。
・筋肉の障害
・関節の骨の変形
・関節周囲の組織の障害
・関節円板(圧力分散のためクッションの役目を担っている、繊維がまとまった組織のこと)の障害
図https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000319.htmlより抜粋
上記の中でも関節円板が通常の位置からズレてしまうことで顎関節(がくかんせつ)の動きが悪くなったり、痛みが発生する障害が最も多くみられます。
図https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000319.htmlより抜粋
主な症状は下記のとおりです。
・ものを食べた時、顎関節(がくかんせつ)に痛みを感じる
・口が開けづらい
・大きなものが食べられない
・口を開くときに耳の付け根辺りで「カックン」「ジャリジャリ」といった不快な音が鳴る
・あくびや大きく口を開けた後、口を閉じる時に引っかかる感じがしたり、すぐに口をとじられない
・頭痛、首や肩・背中の痛み、腰痛、肩こりなどの全身におよぶ痛み
・めまいや耳鳴り、耳がつまった感じがする
など症状は多岐にわたります。
軽い症状の場合2~3日で症状が治まってしまうことが多くありますが、何度か繰り返される場合、自己判断で放っておくと重症化や治療期間の長期化につながってしまいます。
上記の症状があれば歯科や口腔外科へ早めの受診をお勧めします。
検査・診断
問診にてどのような症状があり、いつ頃から症状が始まったのか、
日常の癖や習慣・生活スタイルなどを具体的に確認する。
続いてX線を使い、顎(あご)の動きや咀嚼筋(そしゃくきん)の痛みなどの検査を行う。
場合によっては頭部のエックス線検査やCT検査、MRI検査や顎関節(がくかんせつ)鏡視検査(きょうしけんさ)でより詳しく関節や筋肉の状態を調べることもある。
また、痛みには心理的要因の関連も考えられることから、心理テストなどを行う場合もある。
治療/予防
咬み合わせの調整やマウスピースなどの補助器具を歯にかぶせ、顎関節(あごかんせつ)の負担を軽減させます。
日常生活の癖や習慣などを改善してもらうよう、患者本人に自分の生活スタイルをよく認識してもらい、改善するよう促(うなが)す。
具体的には
・硬い食品の咀嚼や長時間の咀嚼は避ける、
・頬づえをやめる、
・姿勢を良くする、
・歯の食いしばりに気づいたら上下の歯に隙間をつくる
・強い緊張を感じる環境を改善する
また病院の設備や規模によっての違いはあるが、理学療法としてマッサージ、ホットパック、低周波治療、鎮痛を目的としたレーザー照射などの物理療法や、ストレッチ、下顎可動化訓練、筋力増強訓練などの運動療法を用いる場合もあります。症状がひどい場合は、顎関節に潤滑剤を注射することも検討します。しかし噛み合わせの調整が第一選択となることはほとんどありません。
まとめ
会社員だって「歯が命!」たった1本の歯で人生が変わってしまうかもしれない。
なんか変だな、違和感があるな、と感じたらためらわずに歯科医院、口腔外科(こうくうげか)、矯正歯科(きょうせいしか)を受診してください。
なんておおげさなことを言ってるんだ、そう思われるかもしれません。ですが、たかが歯が1本。されど歯が1本。
そのたった1本の歯のメンテナンスや治療を怠った(おこたった)がために口腔内の衛生状態が悪くなり、虫歯や歯周病といった口腔内の病気だけでなく、内臓疾患やリウマチなど思いもよらない内臓疾患を発症させたり、症状の進行を高めてしまうリスクがあることが既に明らかになっているのです。
※疾病のリスク 日本歯科医師会雑誌21年7月号より引用
http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/meeting/file/meet_2021sp_sp15.pdf
更に以下のようなことも考えられます。
もしあなたが会社員で営業職をしていたとします。得意先の顧客を訪問したとき「こんにちは。いつもお世話になり、ありがとうございます。」と、あいさつをしたとしましょう。
歯並びの良い真っ白な歯と、綺麗なピンク色で引き締まった歯茎。
口が大きく開き滑舌も良く表情豊かな外見は、とても爽やかで印象が良いはずです。そして、たったそれだけのことで営業成績の向上につながる可能性があるのです。
しかし一方で、ガチャガチャと歯並びの良くない黄ばんだ歯と、黒ずんで腫れぼったい歯茎。口は上手く開かず声が前に出ない。
もしかしたら口臭も出てしまっているかもしれません。
そうなると、誠実な態度でとても良い物を紹介しているのに、口元の印象のせいで、その契約を逃してしまうかもしれません。そして既にそんな切ない経験をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。
ですから、そうならないうちに口腔内の健康に目を向け、口腔衛生を心がけ日頃からのメンテナンスや治療を速やかに行うべきなのです。